細長い店の奥のソファーに坂口が案内され、良太はその坂口に腕を取られているから、必然的にその隣に座らせられる。
すると良太の隣には竹野が、坂口の向こう隣にはひとみ、アスカが陣取り、向かいにはドラマの座長である宇都宮と本谷、端に工藤が座った。
ソファからあぶれた溝田や秋山や、そのほかのメンツはカウンターのスツールにとまった。
「よおし、今夜は何でも飲んでいいぞ! 俺のおごりだ」
坂口は大きな声で太っ腹なセリフを吐く。
「おい、工藤、またしけた面してねぇで、ちったあ笑ったらどうだ」
「おかしくもないのに笑えませんよ」
工藤が言い返すと、ひとみがアハハと笑う。
「だあめよ、高広にンなこと言っても無駄無駄。この渋ーいツラが専売特許」
そういうひとみは既にグラスを一杯空けている。
「もう酔ったのか」
工藤はひとみをひと睨みするが、いつものごとくひとみには何のそのだ。
「そういえば、ヤギちゃんも最近全然じゃない?」
「スタジオに籠ってる」
「あーら、可哀そうに。早く穴倉から出てきて飲もうって言っておいて」
ひとみはそういうと、今度はさっきからグラスを持ったまま体を固くしている本谷に向き直る。
「ちょっと、本谷ちゃん、新人だからって遠慮しなくていいのよ? もう、そんな怖いオジサンが横にいるからよねぇ」
ひとみの科白に坂口に何だかだとかまわれていた良太は、はっと顔を上げてほぼ向かいに並んで座っている工藤と本谷に気づいた。
うっわー、これって、まずいっつうか、何っつうか、どうしよ!
ひとみの言ったように、本谷が固くなっているのが、工藤が怖いからだったらよかったものの、真逆の状況なのに、良太は一人焦った。
や、別に俺が焦らなくてもいいんだけどさ。
なんか、本人たち以外にあのこと知ってるのは俺だけだし。
や、だからって俺がどうの考えることもないんだけどさ。
なんか、本谷、嘘の付けないやつっぽいし。
ってか、そりゃ工藤が本谷のこと気に入ってもらっちゃ困るんだけど……。
もう一度本谷を見ると、なんだか本当に緊張してるようだった。
「あの……」
「どうだ、今度の役は……」
本谷が意を決したように隣の工藤に話しかけたのと同時に、工藤が本谷に話しかけた。
「あっ……はい、やっぱりまだてんで、ヘタクソで、皆さんにご迷惑かけてばっかで…」
本谷の声は緊張しているからか、やけに大きく聞こえた。
良太がえっと思ったのは、滅多にないことだが、珍しく工藤が罵倒するでもなく誰かに声をかけたからだ。
良太は複雑な面持ちで二人を見た。
嫉妬が混じっていないはずもない。
実際、妙に工藤の表情が柔らかくないか?
だが、二人を見ていたのは良太だけではなかった。
「皆さんにご迷惑っての通り越してない? もう、ほんと、何回もリテイクとかやめてもらいたいわ。次あんなだったら、工藤さん、いい加減この人何とかしてほしいわ」
良太の隣に座るこのドラマのヒロイン、竹野が毒舌をぶちかましたのだ。
これには座がしらっとなった。
「おいおい、まあ竹野さん、こんなところで」
なんて声が溝田あたりからあがるものの、「何でこんな人がこのドラマのメンツに入ってるのか、ほんとやってらんないわ」と暴走する竹野を止めようとする者はいない。
本谷は今度こそ身を縮こませて、恐縮至極といった態で、グラスを握りしめている。
ドラマのプロモーションイベントの時から、どうやら竹野が工藤に取り入りたいのかもしれないと、良太は思っていた。
撮影に工藤が顔を出した時には、早速声をかけて、竹野は自分の演技のことを工藤に尋ねていた。
それに対して、工藤は「悪くはない。このままいけばいいんじゃないか」くらい言ったろうか、それからもたまに工藤が顔を出すと、竹野はすかさず駆け寄って何か話しかけるのだが、相変わらず工藤は一言二言口にする程度だ。
どこかの女優のように女を前面に出して工藤に近づこうという性格ではないらしいが、さっきは工藤の方から本谷に声をかけたのだ、これに竹野がカチンときたのかもしれない。
「やっぱ、竹野さん、物言いがきついから、本谷さんが委縮しちゃったんじゃないですか?」
竹野の隣で、にこやかに言った良太に、一斉に周りの視線が集中した。
つい、とかうっかり、とかよくあることで、先日も、千雪さんもたいがい横暴だ、などと本人にはっきり言ってしまった。
普通ならそこまで口にしない方がうまく世の中を渡っていく術なのだろう。
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