夏を抱きしめて15

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「冗談……」
 笑い飛ばそうとした元気だが、「あそこにどう見たって堅気じゃねーオッサンいるだろ?」そう将清に言われてチラリと指し示された方をみると、いかにも業界人という雰囲気の男が煌びやかなドレスの女たちと談笑している。
「あいつ、赤坂プロダクションって、人気タレント抱えてる事務所の社長だが、気をつけろよ、ずっとお前のことジロジロ見てたぜ」
「そういえば、俺も気になってたんだ。高いところからだとよく見えたから。元気の知り合いかと思ってたけど」
 佐野までがそんなことを言い出し、元気はげんなりする。
「やめてくれ。バカバカしい」
 大学の仲間が中心になって一騒ぎ終えた頃、二次会はお開きとなった。
 新郎新婦がホテルへ戻ったあと、江川や将清と久しぶりに飲むかという話になり、飲んだくれたいくらいの心境だった元気は「どこ行く?」と率先して歩き始める。
「『アクア』にするか?」
「西麻布の? そうしよう」
 将清の提案に江川が頷く。
「もちろん、将清のおごりだな?」
「任せろよ、元気。たまの東京だもんな」
「『アクア』なら、お前んちにこの引き出物置いてからにしないか?」
 江川の提案で、三人とも自分たちが大きな引き出物の紙袋をさげたままなのを思い出す。
 タクシーを停めようとした将清に、「悪い、ちょっと俺電話しないと」と元気は辺りを見回すが最近電話ボックスなど減るばかりで、近くにありそうにない。
「携帯は?」
「兄貴んちに忘れてきたんだ」
 本当はわざと置いてきたのだ。
 持っていたら持っていたで気が散って披露宴どころじゃなかったからだ。
「何だ、俺の使えよ。聞かれてまずい電話でもないんなら、車に乗ってからにしろよ」
「まずいもんか。じゃ、貸してくれ。兄貴に一応電話入れとかないと」
「お前って、未だにブラコンな」
 携帯を渡しながら将清が言う。
「悪いか」
 開き直るでもなく元気は言い返す。
 程なく停まったタクシーのトランクに引き出物を入れ、三人はタクシーに乗り込んだ。
「あ、兄貴? 俺。将清たちともう一軒飲みに行くからもちょっと遅くなるんだけど」
「おい、どうせならうちに泊まれよ。お兄さんたちに起きて待っててもらうの、申し訳ないだろ。用賀なんて、タクシー代もバカにならないぜ」
 携帯で話している元気の腕を引っぱって、隣の将清が口を挟む。
「え、いいのか? じゃ、そうさしてもらう……あ、あのさ、毛利が泊めてくれるって言うから。うん、遅くにごめん。え? 電話って誰から?」
 ドキリ、と元気の心臓がはねる。
 もしや豪からか、と思った元気だが、兄からは意外な名前を聞いた。
「古田? うん、じゃ、番号教えて」
 間をおかず、毛利が手帖とペンを差し出す。
「……わかった、電話してみる。うん、お休み」
 携帯を切ると、何だろう、と思う。
 古田といえばみっちゃんしか考えられない。
 みっちゃんが、わざわざ兄貴のうちまで電話くれて、一体何の用だろう。
 やはり、その幻のギタリスト云々のことだろうか。
 って、どうして俺が兄貴のとこにいるってわかったんだ? わざわざうちに電話したんだろうか。
 とにかく気になって、今度は携帯でみっちゃんの番号にかける。
「あ、みっちゃん、電話くれたって?」
「よう、こっち来てるんだって? 今、どこだ?」
 すぐにみっちゃんが聞いてきた。
「ああ、今、披露宴の二次会終わって、将清や優作と飲みに行くとこで…」
「どこだ? 俺もそっち行く」
「何で?」
 相手がみっちゃんだと、つい何か裏があるのではないかと、元気はつい身構えてしまう。
「お前、将清や優作とは会ってるくせに、俺には会えないって?」
 みっちゃんはすかさず突っ込みを入れてくる。
「わかったよ。えっと、西麻布の『アクア』って店」
「アクア、だな」
 携帯を切って、はあ、と元気はため息をつく。
 どうもみっちゃんにはかなわない。
「誰?」
 毛利が聞いてくる。
「ああ……、みっちゃん。こっちに来てるのに挨拶もなしかよ、ってさ」
「何、まだ、GENKIとわだかまってんの?」
「何だよ、それ……」
 まあ、いっか。
 GENKIとはわだかまりたくないと思ってるんだが、その幻のなんちゃらってのも気になるしな。
 豪……、やっぱあの女と一緒なのかな……。
 ああもう、クッソ、今夜は飲んでやる!
 元気はイラつきながら窓の外に広がる夜の街に目をやった。

 


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