夏休み5

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 忙しい時は近くにいてもまともに話もできない。
 とりあえず、真中が会社に入ってくれたお陰で良太は小笠原のマネージメントの仕事からは解放され、寝る間もないごとき状態からは脱した。
 当初、志村担当であるベテランマネージャーが小笠原の面倒もみていたのだが、志村をどうしても優先させるため、そういう時、良太か工藤が動くしかなかったのだ。
 真中はマネージャーというよりまだまだ付き人みたいなものだが、小杉に指導を仰ぎながら彼なりに一生懸命のようだ。
「車、まわしてきます」
 良太は先にオフィスを出て、エレベーターに向かう。
 駐車場から工藤のジャガーをエントランスに回すと、良太はエアコンを入れて工藤を待った。
 間もなくエントランスから工藤が現れたのを見た良太がドアを開けて運転席を立つと、一斉にセミの声がさんざめく。
 すんげーセミの合唱。
 太陽の光をまともに浴びて、良太は少し顔をしかめつつ、工藤のために後部座席のドアを開けた。
 車に乗り込んでからも、しばらく工藤は携帯でいくつか打ち合わせをしていた。
 黙々とハンドルを切る良太は、バックミラーで工藤の顔に少し疲れの表情を見て取った。
 ようやく携帯を切った工藤はポケットから煙草を取り出してくわえるが、火はつけていない。
 最近、努力して本数を減らしていることは良太も気づいていた。
 良太だけでなく、鈴木さんやアスカに、健康によくないという理由で散々言われている。
 だが、本数が減りましたねなんてことは、口が裂けても言わない。
 このオヤジ、天邪鬼だから、かえってまた本数を増やしかねないからな。
 工藤はようやく一息ついたようすで、それでも眉間に皺を寄せながら、深々と座席に座りなおす。
「工藤さん、最近ちゃんと寝てるんですか? あんまし無理しないでくださいよ、いい年なんだから」
 ついついぼやきたくもなるものだ。
「うるさい。お前は自分の仕事のことでも心配していろ。マスコミ嫌いらしいな、沢村は。せいぜい機嫌を損ねないようにしろよ」
「わかってます」
 今年オールスター前から既に独走態勢に入っている関西タイガースの四番打者、沢村智弘。
 打率、打点共にトップの沢村は、今年、闘将星川監督に請われてパリーグから移籍したプロ野球界屈指のスラッガーである。
 ただし、沢村はバリバリの東京っ子で、田園調布に家を構える大企業の社長を父に持ち、K大付属高校では甲子園を二度経験し、やがてK大からドラフト一位でパリーグで現在首位を行くレッドスターズに入った。
 入団してすぐ一軍にあがり、怪物といわれた頭角を現すと、新人王に始まって、首位打者二回と、数々の功績を残している。
 この天才スラッガーとエース級投手との超大型電撃トレードは一時世間を騒がせたが、怪我で実力派投手二人がシーズンを絶望視され、かつ外国人助っ人は暴力沙汰で来日困難となり、しかもドラフトでは意中だった即戦力の大学リーグナンバーワン投手を取り損ねたレッドスターズと、こちらも怪我のため四番打者の引退を急遽余儀なくされたタイガースとの間で双方の利害関係が一致した円満トレードだった。
 もともと星川監督のファンだったという沢村は、現在快進撃を続ける関西タイガースの要として活躍し、絶大な人気を誇っている。


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