春立つ風に132

back  next  top  Novels


「どないでした?」
 待っていた電話らしく、千雪は急いて相手に尋ねた。
「なるほど、また、何かわかったらお願いします」
 千雪が携帯を切ると、みんなが一斉に千雪を見た。
「渋谷さんから、ボールペンの残骸はあったみたいやけど、こないだと同じ数字がいくつか並んどるだけやて」
 渋谷の方は、「また何かって、参るなあ」と電話の向こうで呟いていたが、千雪はそんなことはお構いなしである。
「そう、なんですか」
 いずれにせよ良太としてはガックリだ。
「俺のボールペン、じゃあやっぱ大石が? まだ何か企んでるってことですか」
「やから俺に聞くなや」
 問い詰めてくる良太を千雪は軽くいなす。
「お、淳史だ」
 山倉がポケットから携帯を取り出して、電話に出た。
「フーン、わかった。お疲れ」
 電話が切れると、今度は皆の視線が山倉に向かう。
「いや、淳史と将太がその車が燃えたって辺りをちょっと探ってたんだが、近くに別荘がいくつかあるらしくて、警察が調べてたのは燃えた車のあたりだけで、淳史が一つ気になる別荘があって、新しい車のタイヤ痕が続いてたのが怪しいってんで、カメラしかけてきたってよ」
「怪しいって、どう怪しいんです?」
 森村が聞いた。
「ああ、それな、実はここんとこ大石のようすが妙やねん」
 山倉の代わりに辻が答える。
「妙ってなんですか?」
 今度は良太が辻を見た。
「うーん、なんや、会社でもうちでも怒鳴り散らしとるらしんや。ってか、大石の屋敷に慌てふためいた男どもが出たり入ったり、穏やかじゃないようすらしいで? 中華飯店やっとるダチが、たまに屋敷に出前持ってくんや。そん時、生駒の別荘がどうとか聞こえた言うて」
 辻の話に、千雪は「大石にとっても寝耳に水な話やったんかもな。柏木弁護士が車と一緒に燃えたいうんは」とさらりと口にする。
「え、それってどうゆう…………」
 良太が言いかけたところへ、ラウンジのスタッフがやってきてラストオーダーを告げた。
「俺の部屋に、移動しませんか?」
 このままわけわからずに解散されては、良太としても東京に戻るに戻れない。
 みんなもそれに対して異存はなく、一斉にエレベーターで良太の部屋へと上がった。
「ちょっと狭いけど、すみません」
 一般的なツインの部屋だから、大きな男たちが入るとそれだけで圧迫感がある。
 みんながベッドや椅子に適当に散らばると、千雪がまず口を開いた。
「数日前から、東京で京助や加藤に、ある男を調べてもろてる」
「誰です? それ」
 すかさず良太が聞いた。
「モリー、お前の上司が追っとる男と同一人物やないか思う」
「え、警視庁の?」
 つい森村は口走った。
「なかなか尻尾が掴めへんのやろ? こっちはあいつにターゲット絞って、動いとるからな」
「警視庁って、警察官?」
 みんなの表情に俄かに緊張が走る。

 


back  next  top  Novels