ACT 2
その日、工藤はテレビ局など業界関係の忘年会に出席することになっていたが、お前は行かなくてもいいと工藤に言い渡された良太は久しぶりに早くあがれることになった。
会社の忘年会の晩以来、工藤とぎくしゃくしている。
いつもながら横暴だと、工藤の態度に良太は腹を立て、少々反旗を翻しているつもりなのだ。
普通なら代わりにどこそこへ行け、と工藤から無理難題なお達しがくるはずなのだが、今年はとにかく、『おとなしくしていろ、業界関係者とは仕事以外極力顔を合わせるな』だ。
だが鴻池が一緒となれば、良太としても顔を合わせたくはない。
良太にドラマに出るよう唆してかつ良太と工藤との間に波風を立てた張本人だ。
「あの人もな~、転んでもただ起きないというか、性懲りもなくというか、さすが工藤の先輩というか…」
たまたまオフィスに寄った秋山は、鴻池との仔細を工藤からあらかた聞いていたので、夕方オフィスで良太がボソッと零した言葉に苦笑した。
「鴻池さんには絶対顔を合わせるなって? まあ、わからないでもないよな。今度のCM思った以上の反響だし、スポンサーとしちゃあホントのところ引きたくないだろうけど、工藤さんは、これ以上世の中に良太を見せびらかしたくないんだろうし」
さらりと良太を赤面させるようなことを言い、秋山はコーヒーをすする。
「んなこと考えてるもんですか、あのオヤジが」
急遽降板した俳優の代わりに夏にイタリアまで行った甲斐があったというか、アスカと良太が出演した鴻池物産の『カフェラッテ』のCMは大方の予想を超えて、暑さにめげずに撮影された秋冬バージョンも評判は上々だ。
妹の亜弓からも、お兄ちゃんやるじゃん、というメッセージと共にSNSでCM動画が送られてきて、良太にしてみれば頭を抱えたくなる状況だ。
代理店プラグインの藤堂がオフィスにやってきたのは、そんな時だった。
「やあ、良太ちゃん、こないだはお疲れ様。しかも、北海道旅行なんか当たっちゃって、いやあ、嬉しくてあの晩は胸に抱いて寝たよ」
小躍りするようにやってきた藤堂は、ニコニコとそんなことを言う。
「いいえ、どういたしまして。でも…、北海道旅行なんて、藤堂さん、いつでも行けるんじゃないですか? だって前に北海道に別荘があるって言ってたでしょう?」
「いやいや、当ったクーポン券というのに大きな意義があるんだよ。せっかく二名様まで行けるらしいし、どう? 良太ちゃん一緒に」
「またからかうし。そういうのは恋人と行って下さい」
「ふむ、だからだね~?」
のらりくらりと藤堂は言葉を連ねる。
「わざわざそれ言いにきたんですか?」
「おっと、大事な用件を忘れるところだった。実は鴻池さんにさっき挨拶に行ったら、CMがとってもいい感じだと大変喜んでいるんだ」
「はあ……」
今はあまり聞きたくない話題だ。
と、その時オフィスのドアが開いて、入ってきたのは工藤だった。
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