例え俺が思っているほど工藤は俺のこと思ってくれてないのはわかっていても、やはり裏切りのような気がしてならない。
こんな身体、誰がどうしようが構わないのだけれど、工藤に知られて嫌われることだけが気がかりなのだ。
ここひと月ほど、工藤は海外やら北海道やら九州やらへ飛び回り、そんな時間がないのが救いといえば救いだ。
二人きりになるのが怖い。
良太の頭を占めているのはただ工藤のことだけなのだ。
ぼんやりそんなことを考えていた良太は電話の音にビクリと身体をこわばらせる。
あいつだろうか。
恐る恐る出た良太の耳に聞こえてきたのは、一番聞きたかった人の声だった。
土方から連絡を受けるのが嫌で、携帯を切ったままにしていたので、何で切ってるんだとまず怒鳴られた。
「あ、すみません、うっかりしてて。はい、こちらは何とか。九州はもうかなり暑いでしょう?」
志村嘉人が主演に決まっているJHKの来年の大河ドラマは幕末を背景にしたもので、志村は坂本龍馬を演ることになっている。
その資料をまた探してくるようにと、工藤は良太に言った。
「わかりました。午後から、何も予定ないし、早速行ってきます」
電話を切ろうとした良太に、工藤が、おい、と呼びかけた。
「また、アスカに文句を言われたぞ。お前が疲れてるって。無理しなくていいからな。資料探しなんか、明日でもいいんだ。きつかったら、休めよ」
何で……………
何でこんな時に、そんな優しくするんだよ!
「え、俺全然平気ですよ。任せといてください」
電話を切った後、頬が濡れているのに気づいて慌てて拭う。
チクショー!
フェイントじゃん。
いつもそんな優しげなこと言った試しないのにさ………
母校の大学の図書館や国会図書館でいろいろ資料を集めていた時、偶然法学研究室にいる助教小林千雪に出くわし、坂本龍馬なら詳しい教授がいるというので、先日紹介してもらった。
小林千雪は推理作家で、青山プロダクションではこれまで小林原作の老弁護士シリーズを映画やドラマ化しているため、良太も何度か顔を合わせている。
名字が坂本だから興味を持ったという教授は、気のいい四十代後半の文学者だ。
坂本教授に連絡を取ると、午後はあいているからいつでもおいで、とのことだった。
坂本教授の研究室を訪ねると、既にいろいろと教授が参考にと揃えてくれた文献が机の上に積まれていて、良太は早速、その文献をあさる。
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