不精髭の教授はあまり女子学生には好かれていないらしく、助教と助手は男だ。
今日は先日訪れた時にコーヒーを入れてくれた助教も出払っていて、夢中になって本と格闘していた良太は気づくと喉が渇いていた。
「何だか喉が乾きましたね。カフェテリアにでも行きましょうか」
坂本教授の有り難い申し出に良太はそれまで調べた文献からめぼしいところをコピーに取ると、一緒にカフェテリアに向かう。
卒業してから久しぶりに入ったカフェテリアだが、全然変わっていない。
懐かしさもある。
「コーヒー、ブラックでいいですか」
自販機でブラックを二つ入れて教授のテーブルに戻ると、小林千雪が坂本教授と何か話していた。
彼の横には、見たことはあるし、噂は聞いていたものの、話したことはなかったその男が一緒にいた。
「綾小路京助。法医学教室にいるんや。こちらは、工藤さんとこの広瀬良太。俺の教え子でもある」
相変わらず美人な顔を黒縁のメガネに隠した千雪は、異様に男前な大きな男に良太を紹介した。
「工藤んとこの? お前、何だ、タレントか?」
京助は高飛車な物言いで、良太に尋ねてくる。
良太も思わずムッとなって、「秘書です」と答えた。
「秘書ぉ? 工藤のやつ秘書なんてガラかよ」
「秘書いうだけやのうて、プロデュースもするんや、優秀な社員なんやで、良太は。な?」
さらに横柄な口をきく京助に、良太の代わりに千雪がそう言って良太に同意を求める。
「いや、まだまだですから。そんな優秀だなんて」
とりあえず、千雪の手前謙遜しておくが、じっと目は京助を睨みつけた。
以前、小林千雪と一緒に、何かの事件を解決したというので評判になり、以来デコボココンビとして大学内外で有名になったという話は聞いている。
メチャ女にもてるらしいじゃん、こいつ。
「あ、俺そろそろ講義がありますから。ほな、広瀬くんのことよろしゅうお願いします」
そそくさと去って行く千雪に、良太もペコリと頭を下げる。
その後を追いかけようとした京助だが、行きかけてまたテーブルに戻ってくると、いきなり良太の腕を取ってテーブルから離れた。
「おい、お前、工藤の秘書ってなら、いいか、金輪際工藤に、千雪に不埒なマネさせるんじゃないぞ」
耳元での囁きは決して穏やかなものではなかった。
「不埒なって……工藤さんが小林先生に何かしたんですか?」
「何かしたかだと? おおう、したともさ。千雪を追いかけて手出しやがって! あのやろう、スキあらばと狙ってるんだ。わかったな!」
京助の言葉が頭の中でリフレインする。
千雪を追いかけて、手出しやがって!
がんがんがん…
京助の荒々しい靴音が重く響く。
やっぱり…そうだったんだ。
千雪さんのこと追いかけて。
工藤さんにとって千雪さんはやっぱりそーゆー存在なんじゃん。
そっかあ…あの人…
心は鉛のように重い。
俺じゃあてんで代わりになんかなれない。
そっかー…
back next top Novels
