「一体どういうつもりなんだ? 鴻池さんは」
昔からテレビ関連仲間の行きつけとなっているバーのカウンターで、工藤は声を荒げた。
「んなもん、本人に聞いたらいいだろう?」
隣でカラリとグラスの氷を鳴らしたのは、これもMBC時代からの腐れ縁、今も局のディレクターである下柳だ。
互いに売上には関係ないようなドキュメンタリーを敢えて好むというのが長いつき合いの所以でもある。
「俺の電話、無視してるんだ。クソ…何考えてやがる」
イタリアのCM撮影の時から、鴻池は良太をドラマに出したいなどとは口にしていたが、いくらなんでも冗談だと思っていた。
「まあ、良太ちゃんは可愛いからな~、使ってみたくなったんじゃねーの? それはわかるな」
「んなもん、わかるな!」
ストレートでウイスキーを呷り、工藤はつっかかる。
期限が悪い時には好きなラム酒はやらないのが工藤の主義だ。
「大体、プロデューサーはこの俺だ、あの人じゃない! それを、良太のやつ、俺に一言の断りもなく、鴻池さんに言われたから、とか何とかいいやがって!」
「ははー、鴻池さんを妬いてんのね、工藤ちゃんてば」
下柳は笑う。
「ふざけんなよ!」
実際その可能性がないとは言い切れないのだ。
「あの人、どっちもいけるじゃねーか。男でもきれいなの好きだったろ?」
「良太はそんなんじゃねーよ!」
そう、何か違うのだ。
良太をそういう対象として見ているとは思えない。
全く、良太のやろう!
つい、怒鳴りつけてしまった。
今更ながらに後悔が押し寄せる。
下柳の言うとおりだ。
鴻池に嫉妬したんだ。
ったく!
それだけではない。
もうCM撮影の時からあった危惧。
CMで人気でもでようものなら良太が自分から離れていくのでは、という。
クソ愚かしい心情。
羽ばたかせてやれ、鴻池は言ったが。
俺だけのものでいろ、俺以外に心を許すな!
限りない独占欲。
日増しに強くなる。
そんなものがあいまって、つい、本音が出てしまった。
工藤は自分を嘲りながら、一人首を横に振った。
撮影は生半可なものでは許されない。
それはよくわかっていたはずだった。
ディレクターから何度もダメだしをされ、他の共演者からブーイングを受けながらも、良太は何度も挑戦した。
アスカにもあんなに何度も練習につきあってもらったのに。
大澤流などには、目一杯文句を言われた。
「お前、主役の俺たちに何度もリテイクさせるなんて、いい度胸してるじゃねーかよ! こっちはこんなとこでうだうだとつまづいてる暇ねーんだよ」
サブディレクターはそれでも、そんな良太の一生懸命さを買ってくれて、「言いたいやつには言わせておけ。いいものができるんなら、何度でもやるさ」などと良太を慰めてくれる。
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