街路樹は密やかにに葉を落とし、寒々しい冬の様相に一役かっていた。
世の中は年の終わりに近づいて、不景気ながらもやや活気づいてきたところだ。
忙しなく行き交う車を横目に見ながら、通りをトボトボ歩く広瀬良太は冷たい向かい風に肩をすくめた。
「あ~あ…」
やけに長いため息は風にかき消される。
手に持っているコンビニの袋はガサゴソと風の摩擦に音を立てている。
すばらしい二枚目とは言い難いし、すごいイケメンとも少し違うが、そこそこ甘めのチャーミングなマスク、スレンダーな体躯は今どきの若者だ。
だが、その表情からは、すれ違うOLが思わず、まあ、会社のリストラにでもあったのかしら、このご時世だからかわいそうに、と思ってしまうような深刻さすら窺える。
可愛い子なのに、とちょっとつけ加えて。
乃木坂にある七階建ての瀟洒なビルの前で、良太はもう一つ、ふう、とため息をついた。
エントランスに青山プロダクションとある自動扉の中に足を踏み入れると、良太は玄関ロビー横の階段を二階へと上がっていった。
テレビ番組、映画の企画制作及びタレントの育成とプロモーションが、青山プロダクションの主な業務内容である。
一応、良太にはこの会社の社長秘書兼プロデューサーという肩書きがある。
実際は運転手も雑用係も兼ねているが。
ちょっと前に、良太が会社を辞める辞めないですったもんだもあったのだが、今彼にのしかかっている大きな問題はまた別物だった。
「良太ちゃん、あった?」
出迎えてくれたのは、会社の経理や庶務全般を任されている年配女性、もとい、アラフィフの鈴木さんだ。
期待に満ちた目で声をかける鈴木さんに、良太はクビを横にふってみせた。
「やっぱりなかったの?」
一見優し気な風貌に大抵だまされがちだが、この鈴木さんは、何事にも動じない芯の強さで、強面の社長ですら頭が上がらない、ある意味会社のドン、と言えるかも知れない。
「もう引き換え期間、終わってしまって、ないんだって……アライグマのスープ皿……あーあ…」
「アライグマがなんだと?」
大テーブルの傍で電話を終えた社長の工藤が眉をひそめて良太を見やる。
「コンビニでポイント集めると、アライグマのお皿がもらえたんです。でも昨日でキャンペーン終わったみたいで」
大柄な男は、しばし、良太をじっと見据える。
「幼稚園にでも入り直すのか?」
抑揚がないだけに、一層侮蔑的な言辞を弄し、出かけてくる、と工藤はオフィスを出て行った。
「亜弓に頼まれたんだよっ! へっ、若い女の子の繊細なハートなんか、到底オヤジなんかにわかりゃしないさ、トウヘンボク!」
思わずパーンチ! と工藤の出て行ったドアに向けて右の拳を突き出した。
亜弓とは、静岡に住む良太の妹である。
贔屓目に見なくても美人で可愛いこの妹にはいささかかなわない兄良太なのだ。
「良太、『共和通信』の打ち合わせ、三時になったからな」
またドアが開いて工藤が言った。
ふいうちに引っ込みがつかなくなった拳を宙に浮かせたまま、良太は「は…三時ですね」と、『トウヘンボク』に答える。
お前の考えていることなんかお見通しだとばかりにせせら笑いを残して、再び工藤は消えた。
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