月鏡52

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「政治家も嫌いですよ、工藤さん、反社会的勢力と同様に」
「いちいち嫌味な子だね」
 しれっと口にする良太を多佳子はまた睨み付けた。
「ご用件を早いとこ言ってくれませんか? 工藤さんが留守の間、会社の切り盛りしなくちゃならないんで、そろそろ帰りたいんですが」
 全く、こっちの都合も考えずにこんなとこに連れてきやがって、この魔女オバサン!
 昔話を聞いてやりたいところだが、もう日付が変わろうとしているし、良太もいい加減イラついてきた。
「大体、俺の携帯、勝手に捨てて、工藤さんから連絡入るかもしれないのに、どうしてくれるんですか!」
「だって、GPSが入ってると面倒だから捨てろって、そいつらが」
 その時、玄関あたりで物音や怒鳴り声がした。
 やがて何人もの足音がしたと思うや、ドアが開いてまず狼男が倒れ込みその背後から屈強な男たちが四人ばかり現れた。
「何だい、お前たち。不法侵入じゃないのかい」
 通る声で多佳子がのたまった。
 その横にはフランケンとドラキュラが構えている。
「そういうあんたらは拉致監禁だろうが。この場合警察に捕まるのはあんたらの方」
 偉そうに説明したのは京助だった。
 京助の横には辻と山倉、それに白石が凄んで立っている。
「携帯を捨てれば大丈夫じゃなかったのかい?」
 不機嫌そうな声で多佳子がフランケンに問いただした。
「良太の上着に別のGPS仕込んであるんで」
 京助はそう言って良太の腕を引いた。
「ことを荒立てたくなければ、とっとと良太を連れて帰らせてもらいますがね、次はないと思えよ。今後何か良太にやらかしたら、警察沙汰は必須だ」
 きつい言い方で京助は多佳子を睨み付けた。
「全く、外の見張りは口ほどにもないね。素人にやられちまうなんざ」
 そう口惜しそうでもなく多佳子は言った。
「じゃ、そういうことで」
 京助が良太を連れて踵を返そうとしたその時、「ちょっと待ちな」と多佳子がこれまた凄みのある声で呼び止めた。
 良太や京助らが振り返ると、多佳子は、「何でわざわざこんな面倒なやり方で良太ちゃんを連れてきたと思ってるんだ」と言う。
「だから、さっきから何の用ですかって聞いたのに、昔話ばかりで」
 良太は怪訝そうな顔で言った。
「フン、ちょっとくらい昔話に付き合ったからって、バチはあたらないだろう。こないだ良太ちゃんを返してから、思い出したんだよ。第一、せっかくここまで来て、とっとと用を済ませたら、じゃあさようならって、あんまり寂しいじゃないか」
 多佳子の顔がちょっと寂し気な気もしないではないのを見て、ふう、と良太はため息を吐いた。
「何ですか?」
 すると多佳子はフランケンに目で合図をした。
 フランケンは奥へ引っ込んだかと思うと、紫色の袱紗に包まれたものを大切そうに持って来て多佳子に渡した。
 多佳子は袱紗を開いて、紺のベルベットの細いケースを取り、蓋を開いた。
「もともとさぎりにやろうと思っていたんだが、あっけなく逝ってしまって、高広は恋人に死なれて以来、ちっとも次の相手を探す気配もありゃしない。そこへ、良太ちゃんが現れて、どうやら良太ちゃんが高広の大事な人間らしいからね、良太ちゃんにもらってほしいんだよ」
 それはおそらくヨーロッパ辺りで造られたのだろう細かな宝石や金で装飾が施されたアンティークなロケットペンダントだった。


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