西高東低9

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「今年はテスト受験ってなつもりで軽ぅくいくつか受けてんだけど、M大医学部今日発表みたら引っかかっててさ、親に言ったら、お前を合格させてくれる奇特なガッコなんか他にないから、いいとこ狙って浪人なんかするよりそこへ行けとかって」
 甲本が親への文句をたらたら話すのを見ていた加藤が口を開いたのはややあってからだった。
「……ったくお前ら、俺を担いでるんじゃないだろうな? 軽ぅく医学部受かっただと? あり得ない、お前が軽ぅく医学部受かるとか……」
 加藤は何かとんでもないものを見たかのように目を見開いて首を横に振る。
「だからさ、軽ぅくは受けるにかかってるんで。まさか裏口とかってのはねぇと思うけどM大受けるとか親には言ってなかったし、親もあり得ねぇとかって言いやがって、てんで信じねぇし」
 甲本は飄々と加藤の指摘を訂正する。
「あんた担いでどうすんだよ、わざわざこんなとこまで来て」
 加藤を睨み付けながら力も口を挟む。
「まあ、M大とか受かったっつっても入学金だの授業料だのすんげぇ半端ねぇから、とりあえずもうちと頑張ってまた来年……」
「バカ言え! この際裏口だろうと何かの間違いだろうと、受かっちまったもんはとりあえず入らなくてどうする! お前が頑張ってみるのは構わないが、来年も何かの間違いで受かる確率がどんだけあると思ってんだ? お前んちならM大の授業料くらい、軽ぅく払えるだろうが、でかい病院だし」
 甲本は声を大にする加藤の散々な言葉に苦笑いする。
「ひっでぇイイグサ。ま、払えるだろうけどさ、俺、中学ん時、ちょっと親に世話かけちまったし、親も兄姉叔父叔母もみんな優秀な国立大出で、俺だけバカ大って……」
「過去にやんちゃやっていようがバカ大だろうが医学部は医学部だ。しっかしなぁ、お前らが医者や獣医って、世の中終わりって気もしないでもないが。ま、そこは国家試験ってもんがあるか。あの、一中の山本力と甲本達樹がうちに来るってわかった時は担任を誰にするかで職員会議が長引いたもんだったが…」
「え、何、そんなバレバレ? 俺、結構いい子にしてたのによ。ってか待てよ、山本と俺だけかよ? そこに坂本の名前はねぇわけ?」
 過去を思い起こして感慨にふける加藤に、甲本は疑問を投げかける。
「坂本が何でそこに出てくる?」
「あ、クッソ、あのやろー!」
 当時かなり荒れていた一中で、表の甲本、裏の山本などというありがたいキャッチをいただいていた二人のことは知られているが、そのあとにくっついていた影の坂本の存在を知るものはワル連中だけのようだ。
「じゃ、一応報告したからな」
 今更ながらに坂本の狡猾さを思い知っているらしい甲本を横目に、力は職員室を出て行く。
「あ、俺も行くわ」
 慌てて後を追うように職員室を出る甲本に、「夢が冷めないうちに、とっとと入学手続き済ませろよ、甲本」と加藤が念を押した。
「それでか」
 力に追いついて甲本が言った。
「あ?」
「一年の時の担任、俺は加藤で、お前、クマタンだったろ」
 怪訝な顔を向ける力に甲本は言った。
 クマタンというのは国体で優勝経験もあるという柔道五段の猛者で、加藤より一回りは大柄な歴史教師、上村のことだった。
 見かけによらず優しいしゃべり方をするので、女子からクマタンという可愛らしいニックネームをつけられていた。

 


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