ニヤニヤ笑いながらその男は志央の目の前にナイフをちらつかせた。
「わざと俺を挑発したのはきみだろ? さんざん俺の邪魔してくれてさぁ」
志央がきっと睨みつけるとさらに男は口をゆがめて笑う。
「近藤が俺にたてついて、もうイヤだなんて言い始めてさ。屋上であいつをこらしめてやった時、君があいつを知っていたっていうから、ヘンだと思ってさ、あんな何のとりえもないやつ。ちょっと堺くんをからかった時、やっとわかったよ」
ピタリ、とナイフの刃を志央の頬に当てる。
「ねえ、生徒会長。それとも影の番長さんって呼んだ方がいいのかな?」
朽ちかけた床板や壁、かび臭いクラブハウスには既に電気はきていない。
「まさか、ちょっと粋がってた連中を裏でコソコソやっつけてくれちゃってたのが生徒会だなんてねぇ。俺の手駒も結構痛めつけてくれたよねぇ」
窓はすりガラスで外から中は見えない。
それにほとんどこの旧クラブハウスあとに近づくものはない。
風紀委員のその男が念を押していたために。
「ぞくぞくするよ、きれいな体だ。あんたは俺の憧れだったんだぜ? 美貌と才知と実力とを持って模試で全国上位にいながら、あの学園の大学部に進むなんて。俺は許さない」
「なんだそりゃ? 俺は行きたくて行くんじゃないぞ、バカヤロ!」
志央は男の背後にいる例の三人組の連中に、腕と足を大きな机の四方の角に括りつけられていた。
シャツやズボンを切り刻んでいるのその男の足元に脱がされたガクランが落ちている。
「やめろ、高橋!」
ナイフがシャツをさらに切り裂いた時、志央は叫んだ。
「桜庭をどこにやった? あいつに何もかも聞いたんだな」
高橋は志央の顔に近づいた。
「桜庭の親父がお前の親父の会社にいるのをいいことに、あいつを追い詰めたのはお前のほうだろ」
「フン。やつが小心者だったのさ」
高橋の指が志央の首筋から胸に降りていく。
悪寒が志央の体を走り抜ける。
「こうして触りたかった。君を犯りたくて夢にまで見たよ」
高橋の手が志央の胸の辺りから腰へと撫で擦りながら、生き物のようにねっとりと蠢く。
胸の先端にあたる高橋の舌のぬるっとした感触に志央はぞわりと総毛立つ。
「やめろ…高橋…このゲスヤロー!」
チクショー、こいつだったなんて! 何でわからなかったんだろう! さんざんいやらしい目で人のこと見やがって…
志央の体を執拗に撫で回した手は志央の罵倒などおかまいなく太腿から奥へと入り込む。
「嫌だ! 七海……っ!!」
志央はありったけの力を振り絞って叫ぶが、逃れる術がない。
「うるさい口だな。そろそろ黙らせてやるよ」
高橋が合図すると、後ろの男たちが志央の両手のロープをほどく。
だが、志央が逃れるすきも与えず、三人の男が、高橋に嬲られる志央に好色な色を浮かべた目を向け、へらへら笑いながら、志央の足を押さえつける。
「生徒会長さんはやはり藤原七海がお気に入りなのか…。そんなことを聞くと、余計にひどくしてやりたくなる…」
高橋は両手で志央の脚を掴んで体を割り込ませる。
「七海! 七海…!!」
呼んだところでどうしようもないとはわかっている。
でも、呼ばないではいられない。
その名前しか、頭の中に浮かばない。
嫌だ…っ! 詰っていいから、軽蔑してもいいから…、もう一度傍にきて…
ガチャリとベルトをはずす音が薄闇に響く。
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