東京へ行こう 25

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「姉さんの……ほんとに?」
 しばし呆然としていた真美が聞き返した。
「はい。新年おめでとうございます。これ、お年賀です」
「ありがとうございます。どうぞ、おあがり下さい。客間にお通しして、千恵美。それとおじいさまに新年のご挨拶してらっしゃいよ」
 真美は固い声で言い、ケンからお年賀の袋を受け取ると、奥へと足早に引っ込んだ。
「初めて甥っ子がはるばる訪ねてきたんだぜ? 普通涙流して喜ぶんじゃね?」
 純はコートを脱ぎながら思い切り厭味を言った。
「だから言ったじゃない。うちはみんなああなのよ。何もかもあの頑固ジジイのせいでね」
 千恵美は純に言い返した。
 真美が純の方をちらッと一瞥しただけで声もかけなかったのは、千恵美と付き合っていることや岡本の息子だと知っているからだろうと純は推察した。
 もちろん二人の付き合いを許す気もないに違いない。
 ケンと純が通された広い客間は洋室で、出窓からグランドピアノへと明るい陽が差し込んでいる。
 千恵美は自分のコートとバッグをピアノの傍のテーブルに置くと、二人を奥のソファへと案内した。
 テーブルを囲んで三人掛けのソファが二つ、アームチェアが二つずつ向かい合わせに置いてある。年代ものだがどっしりとしたソファセットだ。
「ちょっと待ってて。あ、それとうちの家族に不愉快なこと言われるかも知れないけど、聞き流して」
 千恵美が部屋を出て行くと、純はふうっと大きく息をついて、ソファにもたれこんだ。
「とっくに俺、千恵美の母親には透明人間かってな扱いだぜ」
 純の呟きにケンは笑った。
「透明人間?」
「そ。無視ともいう」
「人との付き合いって難しいよね」
 ついケンはそんなことを口にした。
「何、何? ケンも彼女のことで何か悩んでる?」
 純は興味津々でケンを覗き込む。
「ひょっとして青い目のブロンド美人とか?」
「残念ながら」
 ケンは苦笑する。
 いや、でも青い目にブロンドは関係ありかもな。
 やがてエプロンをした年配の女性がお茶を運んできて、二人の前に紅茶とスコーンを置いた。
 女性と入れ替わりに千恵美が戻ってきた。
「見栄っ張りの兄嫁が秋にヨーロッパ旅行に行って以来、ロンドンにかぶれてるの」
 なるほどティーカップはウェッジウッドだ。
「今日は兄も兄嫁も父も母もいるのよ。運が悪いことに。もちろん祖父もね」
「向こうもきっと新年早々何だって歓迎せざる客が二人もやってくるんだって思ってるかもな」
 千恵美の言葉に純が皮肉った。
「いや、ケンはそうとは限らないから、約一名」
 やがてドアが開いて、杖をついた老人を先頭に、眼鏡をかけた五十がらみの男と千恵美の母親、それから少し神経質そうな眼鏡の若い男としっかり化粧で顔を作った和服の若い女、続いてその後ろから先ほどのエプロンの女性がトレーを掲げて入ってきた。
 ケンと純が座るソファのほぼ向かいにあるアームチェアに老人が腰を降ろし、二人を睨み付けるように見た。
 二人の座るソファの左続きに置かれた二つの椅子に千恵美の母と年配の男が座り、右続きのソファには若い男と女が座った。
 千恵美は一人ケンと純の後ろに立っている。
 みんな固い表情をしていた。
「瑠美の息子だというのはお前か」
 ティーカップがテーブルに置かれ、エプロンの女性が部屋を辞すると、踏ん反り返った老人は徐にケンに向かって尋ねた。

 


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