はっきりした顔立ちの通り、紀子は物事をはっきり口にするタイプだ。
「あの女、こないだ封切られた映画でも評判いいし、からだだけじゃない売りもあんのよ」
眉を顰めて紀子は強くのたまう。
いくらか腹立たしげに。
「まあ、あれだけゴックンバディなのにキュートな笑顔でみつめられたら、男なんてイチコロだな~」
ニヤニヤと元気はテレビの画像を思い浮かべる。
ダン!
「…な…に? 紀ちゃん…」
カウンターを叩いた紀子の剣幕に、元気はつい、からだを引く。
「デレデレしてる場合?! こないだ発売された井上美奈子の写真集、撮影したのは豪なんだよ!?」
「あ、あ、らしいね」
「らしい?! あのね、そのゴックンバディが豪に超接近してんのよ? ちょっとはやきもきしようとか、思わないわけ?」
「そりゃ、カメラマンだから、接近もするわな」
グラスを拭きながら、元気は呑気そうに笑う。
「夜の代官山で接近してんのよっ! 元気もたまにはワイドショーくらい観たら?」
実は朝、居間のテレビの前に陣取っている母親とそのワイドショーを見ていて、元気は少々出遅れたのだ。
「あれ、あんたの友達のカメラマンの豪さんやない?」
母親の声にコーヒーを飲んでいた元気がテレビ画面に目を向けると、確かに豪とかの巨乳女優井上美奈子の顔が画面一杯に映し出されていた。
「こんな別嬪な彼女がいたのね。イケメンやと思っとったけど、へええ」
感心したように呟く母親の後ろで、元気は腕組みをしてしばし画面に見入る。
『井上美奈子、今話題のイケメンカメラマンと代官山デート!』
画面の文字が大きく踊る。
キャスターや女性コメンテーターが、井上美奈子を羨ましさ半分、やっかみ半分、きゃあきゃあ言いながらカメラマン坂之上豪のプロフィールなんかを紹介している。
にこりともしない硬派なイケメン、とか何とかつけ加えられた豪のイメージは、元気の店でにへらにへらと手伝う男とはまったく別人のようだ。
元はといえば大学の後輩で、その頃はGENKIのライブを撮っていたカメラマン志望の学生だったが、半年程前、豪は東京からわざわざ元気を追いかけてきて近隣の町に住みついた。
というのも、何を隠そう紆余曲折あったものの、元気と豪の二人、はからずも恋人同士、という関係にある。
しかも豪は、郷里に引っ込んで居座ってしまった元気のために元気の実家に近い農家を買って移り住んだ。
だが、仕事の拠点は東京で、国内はもとより世界中を飛びまわって仕事をしている。
だから半年といっても、お互い顔を見ない日の方が多い。
井上美奈子の撮影は数カ月前だった。
そのことは元気も豪からも聞いている。
今はやはり俳優の写真集の撮影で東京にいるが、今度は女優ではなく、俳優、川口朔也のはずだ。
以前、朔也が「伽藍」を訪れて以来、朔也が元気の高校の先輩だということもあって、たまに朔也から連絡があるが、朔也のプライバシーにかかわることでもあり、朔也の撮影をするとは聞いたものの、豪には朔也と顔見知りだとは話してはいない。
いずれにせよそれがどうして今頃井上美奈子とのスクープになっているのかはわからない。
「うーん、これから店を手伝ってもらうのも考えものだな」
母にともなく、なんだかあまり考えもせず、元気は口にした。
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