夏を抱きしめて3

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 スクープが気にならない、というわけではない。
 さもありなん、というのが素直な感想だ。
「なんなのよ、たかがちょっと写真とってもらったくらいで、あの女!」
「まあ、男ならあんな女を前に手を出すなってのが無理かも」
 きりきり息巻いている紀子は元気の科白に、「何よ、それ!」とくってかかる。
「いやあ、俺も人のことを言えた義理じゃないしな~」
 過去の行状からして。
 寄れば食う、去る者は追わず、なんて時代もあったし。
「ったく! どいつもこいつも! だから男ってイヤ!」
 怒りの渦は、収まりがつかないようすだ。
「男ってイヤ、か…」
 仮に豪と彼女がそういうことになったとしても、それもありか、と元気は苦笑する。
 来る者は拒まずとはいえ、相手がいる場合は別だ。
 元気はヒトのものを盗ろうと思ったことはなかった。
 それが、結果的に当時豪とつき合っていた優花から豪を奪うカタチになってしまった。
 しかもそんな豪を一度は捨ててこの街に逃げ帰ってきた自分に、井上美奈子とのことをやっかむ資格はないだろう。
 だが、目の前でいちゃつかれているわけではないから、冷静そうにそんなことを考えられるのかも。
 さしずめ、船乗りの夫の帰りを待つツマ、といったところか。
 って、アホか、俺は!
「元気、元気って、電話!」
 一人突っ込みをして自分に呆れていた元気は、紀子の声にようやく我に帰る。
「豪から。ちゃんとびしっと言いなさいよ!」
 世話焼きおばさんのような口調で、店の電話の受話器を差し出しながら、紀子は客の手前小声で元気の耳に囁く。
「元気! 誤解すんなよ! 俺は潔白だからな」
 受話器を受け取った途端、電話の向こうで、豪が声を張り上げた。
「そんなでかい声出さなくても聞こえる」
 努めて静かに、元気は言った。
「だってさ、あの店だって、井上美奈子がマネージャーと一緒に食事しようっていうから、俺、行っただけなんだぜ? それが店出た途端、マスコミの連中、待ち構えていやがって…」
「仕事中にわざわざ電話するようなことか。切るぞ」
「…だって元気、携帯出てくれねーし」
「店にいるのに、んなもん切ってる。とっとと仕事しろ」
「あ、おい、元気ぃ~」
 情けなさも極まれりな豪の声を最後にガチャン。
「ちょっと、元気!」
 何かまた言おうとした紀子だが、ちょうど四、五人のグループががやがやと店に入ってきたため、きっと元気をひと睨みして無理やりの笑顔でオーダーを取りにいく。
 東京から引き上げてきて以来、元気は携帯などきっぱり持っていなかった。
 先日、豪がプレゼントと称して最新式の携帯を置いていくまでは。
 昔ならじゃらじゃらとストラップをつけた、まみとかゆうことかさとみとかいう名前が入った携帯がポケットに欠かさずはいっていたものだが、いかんせんここのところの元気にとって今時の進みすぎた機能はやたらうざいばかりで、メールはおろか電話機能自体滅多に使われずに電源が切られたままだったりする。
「ラインも携帯も恋人同士の必須アイテムじゃない! 離れていても元気の顔が見たい、って豪ってばかわいいじゃない!」
 元気のジャケットのポケットから豪がくれた携帯が覗いていたのを勝手に取り出し、紀子が機能の説明をしてくれる。
 会えない日の方が多いからというのはわかるが、どちらかが可愛い女の子だったらまだしも、ヤロウがヤロウに携帯で甘い愛の言葉を囁き合う図なんぞ、想像するのも空恐ろしいじゃないか。
 囁く、というか、宣言するのはもっぱら豪にまかせてしまっている元気だが。
 始めはよかったのだ。
 長い人生、こんな恋もたまにはあり、だよな。
 そんなことを考えて、あんな傷つけたはずの自分を追いかけてきてくれた豪を、直情的だが素直なその心を受け入れてしまった。
 よもや近隣に豪が居を構えて住んでしまおうとは、元気には思いも寄らなかった。
 決して遊び半分の気持ではない。
 それは断じて。
 豪が自分のもとに戻ってきてくれることが嬉しくて。
 けどな………、豪、お前…………ほんとに後悔してないのか? それで……。
 胸の奥に燻るブラックホールが段々大きくなるような気がする。
 半年か。
 目が覚める頃かもしれない。
 もう、そろそろ…………。

 


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