夏休み3

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「関西タイガース、沢村智弘か。そういえば、オールスターの試合のあと、沢村が出演したことがあったな。あの時何かあったのか?」
 予期せぬ質問に良太ははっと工藤を見つめる。
「いえ、別に何も」
 そうは口にしたものの、実は少々何かあり、なのだ。
 余計なことばっか気づくんだからな…
「だったらいいが…」
 その時、工藤のデスクの電話が鳴った。
 代表番号ではなく、工藤へのダイヤルインである。
 上に社長室があり、工藤はたまにそっちにいたりするものの、大抵はこの二階のオフィスの奥にある自分のデスクにいる。
「はい、ああ、今のところはな」
 受話器を取った途端、工藤の鋭い眼差しに険が混じる。
「じゃ、俺、仕事に戻ります」
 だれだろう。
 工藤のダイヤルインを知っている相手。
 しかし今どきアナログな固定電話云々、と自分のデスクで良太はついつい考えてしまう。
 千雪じゃないだろうか、とか別の新たな女、まさかあの黒川真保じゃないのか、とか。
 今回北海道ロケが入る志村主演のドラマは、彼の相手役があの黒川真保なのだ。
 この冬、青山プロダクションの面々が北海道でスキーとしゃれ込んだ時、小笠原が連れてきた巨乳女優。
 あからさまに工藤に言い寄っていた。
 我ながらくだらない邪推も今に始まったことではない。
 いつにも増して険しい顔してたけど、平造からかも知れないし。
 工藤にだってプライバシーはあるからな。
 何もかも俺が知ってる工藤ってわけじゃないし。
 未だに未知の部分が多い男だ。
 だが一応、工藤と良太の関係はただの社長とその秘書というだけのものではない。
 その関係は世間でいう、いわゆる恋人同士、というやつに分類されよう。
 少なくとも社内、及びごく一部の人間たちの間では公認ということになっている。
 が、しかし、工藤と良太、ジョーカーはいつでも工藤の手の中だ。
 どう考えても対等じゃないもんな。
 コイビトってより、なんかやっぱ社長と秘書のアイジンとかってやつ?
 ふうと一つため息をついて、良太はキーボードを叩き始めた。 
 
 
「おお、やっと現れたね、良太ちゃん」
 オフィスのドアを開けるなり、能天気な声が良太を出迎えた。
「藤堂さん、いらっしゃい」
「さきにいただいてるわよぉ」
 窓際の大テーブルでは、アスカが大きな口を開けてスプーン一杯のメロンをほおばっている。
 人気女優があんな大きな口を開けてバカバカ食べていいものだろうか、と良太は常々思うのであるが、当のアスカはいっこうに気にするものではない。
「藤堂さんにいただいたのよ、夕張メロン。おもたせで失礼、藤堂さんも召し上がってくださいな。良太ちゃんもこっちに来ていただいたら?」
 鈴木さんが切り分けたメロンの皿をトレーからテーブルに置いた。
「よく冷えてるし!」
 アスカは呟きながらまたスプーンでメロンをすくう。
「でも、アスカさん、三時からドラマの撮影じゃなかった? 秋山さんは?」
 良太はテーブルにつきながら腕時計を見る。
 あと十五分で三時になろうとしている。
「下で待ってる。ちょっと工藤さんに用があったんだけど、いいわ、今日は」
 工藤よりメロン、というわけか。
 あっという間に平らげたアスカをため息混じりで見ながら、良太もメロンにありつこうとした。

 


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