「こら、何やってる!」
ドアが開いて秋山が顔を出した。
明らかに剣呑な表情でアスカを睨む。
「メロン食べるくらいいいじゃない」
「また遅刻だろうが、さっさとしなさい」
「ご馳走様、藤堂さん!」
秋山に注意されようがアスカは悪びれもせず、オフィスを出て行った。
またね、と手を振る藤堂はにっこりと笑顔をみせる。
「ん、うまいい! どうしたんですか? このメロン」
一口ほおばって、良太は藤堂を見た。
「昨日出張で北海道に行ってきたんだ。そこでうまそうなメロンを見つけたから、これは良太ちゃんにあげないとと思ってね。ちゃんと持ってくる前に冷やしておいたんだ」
「藤堂さんって気配りの方ですよねぇ」
得意げにのたまう藤堂を、鈴木さんがちょっとよいしょする。
「いやいや皆さんにはお世話になってますからね~。ところで、工藤さんは今日は?」
にこにこと答えた藤堂は良太に向き直って聞いた。
「上にいますよ。そういえば、工藤さんもこのあと札幌行くんですよ」
「ああ、志村くんのドラマのロケね。あれ、前評判いいよね。良太ちゃんも行くの?」
「いえ」
「じゃあ、今夜飲みに行こうか? 鬼のいぬ間に」
藤堂はにこにこと誘う。
「わかった、河崎さんも西口さんも、三浦さんもいないんでしょ?」
良太はスプーンをとめることなく口にする。
「おや、どうしてわかった?」
「藤堂さん、かまうヒトいないと、ここにくるから」
「何をいうかね、この子は。良太ちゃんはかまいたいヒトの筆頭だよ?」
嬉しいとは言いがたい台詞を発する藤堂は、とにかくやたらとかまいたがりな男だ。
人一倍好奇心も強い。
その実、うわべばかりに気をとられていると、中身は切れ者だったりするので、油断がならない。
「うーん、今夜はやめときます。明日は羽田に工藤さん迎えに行ってまたとんぼ返りで大阪ですから。パワスポの撮りで」
「それは残念だね~じゃあ、また今度ね」
藤堂は自分の分のメロンをスマートに食べ終えると、立ち上がった。
「もうお帰りですの? 社長にお会いになりませんの?」
鈴木さんが声をかける。
「いや、特に用はないので。これ以上長居してまた雷を食らいたくないしね」
そういう藤堂は意味ありげに良太にウインクをしてみせる。
ドアを開けかけて、あ、とまた良太のところに戻ってきた藤堂は、「ところで」と言いつつ声を潜める。
「いつぞや会った美人さんは、時々はここにもくるの?」
「へ?」
しばし考えて、良太ははたと思い当たる。
「え……と、いや、そんなには……」
「まだ出し惜しみしてるし。俺にまで良太ちゃん水臭いな」
「この場合水臭いというのはあまり妥当でない気が……」
良太は誘導尋問に引っかからないように答えながら、苦笑いする。
「まあいい。それについてはまた今度、ね」
オフィスを出て行く藤堂の後姿を見つめながら、やはり、侮れない、と良太は再認識する。
藤堂と入れ替わるように、身支度を整えた工藤がオフィスに現れた。
「あら、工藤さん、お出かけ前に、メロン、召し上がりません? 藤堂さんがくださったんですよ」
「いや、今はいい。コーヒーをもらえませんか」
「わかりました」
鈴木さんがメロンを食べ終えた皿をトレーに載せてキッチンに引っ込むと、「藤堂が何しにきたんだ?」と工藤はすかさず良太に訊ねる。
「夏のご挨拶に寄ってくださったんですよ。工藤さんお忙しそうだからって、たった今帰っちゃいました。おいしかったですよ、夕張メロン」
フンと面白くもなさそうに工藤は鳴り出した携帯を取る。
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