またこの沢村、女性ファンの数が他の選手を圧倒するだけのルックスで既に高校時代からマスコミを賑わせている。
ところが甘いマスクとは裏腹に、性格は超クール、マスコミ嫌いで、スポーツ番組にもよほどのことがなければ出ないので有名だ。
学生時代追い掛け回されて嫌気がさしたらしい。
そんなわけで沢村の取材は、マスコミ陣もかなり気を遣っている。
もちろん、パワスポとしても断られるのを承知で、オールスターの試合後のテレビ出演をディレクターが打診してみたところが、あっさり快諾を得られたのだ。
皆が不思議がる中、本番が終わったところで、良太を見つけた沢村が声をかけた。
「久しぶりだな広瀬。えらく顔を売ってるみたいじゃないか」
「あ、いや、それはその。そっちこそ、すげー活躍じゃん」
予期しない出来事に周りは一時騒然となり、やはりクールに沢村がさっさとスタジオを出て行くと、良太を羨望の眼差しで口々に問い詰めた。
「え、ええ、ちょっと昔知ってるってだけで…」
言葉を濁した良太を、例によって大山が、「ちょっと知ってるくらいでえらそうに」と鼻で笑う。
うるさいな、と心の中で思いつつ、良太は複雑な心境だった。
おそらく工藤はそのあたりのことをスタッフから聞いたのだろう。
スポーツ番組をやっていればいつかは出くわすだろうとは思っていたが、向こうから声をかけてくるとは思わなかった。
工藤にも誰にも話してはいなかったが、沢村は良太の中では永遠のライバルなのだ。
良太が所属したリトルリーグの川崎のチームと沢村が所属した東京、田園調布のチームは大会があるたびに何故だかよく対戦した。
初めての対戦の時のことを、良太はしつこく覚えている。
九回裏、ピッチャーの良太が沢村に二塁打を浴び、良太のチームが負けたのだ。
それだけなら、良太も沢村を目の敵にするようなことはなかっただろう。
「じゃな、へなちょこピッチャー」
「なんだとぉ?!」
別れ際、沢村に言われたその台詞に、当時から既に大きかった沢村にチビの良太が食って掛かった。
もう少しで喧嘩になるところをコーチに止められた。
めちゃくちゃ悔しくて、良太は奮起した。
以来、中学、高校でもよくぶつかった。
良太が沢村を三振にとったことだってあるのだ。
だが対戦するごとに沢村は良太につっかかる。
一度は取っ組み合いの喧嘩になり、両チームの乱闘騒ぎになるところだった。
だが、はっきりいって良太の高校では名門K大付属には歯が立たなかった。
地区予選で三回戦まで駒を進めたところで、またしてもK大付属と当たった。
それでもかなり善戦した方だろう。
意地になって向かっていった九回、沢村に与えた良太のストレートは、駄目押しのホームランにされた。
「俺に勝とうなんて、百年早いんじゃねーの?」
試合の別れ際、沢村がくれた冷ややかな台詞。
悔しいことに、K大付属はその年の甲子園で優勝こそ逃したものの、準優勝。
良太が大学でもまた野球をやりたいと必死になったのには、ドラフトでも騒がれた沢村がK大に進学したという理由もあったのだ。
エースとはいえ六大学でも最下位に甘んじているT大野球部だったが、良太には沢村を三振にとるという意地があった。
back next top Novels
