「へえ、そんなにすごいやつなんか」
「まあな、それに比例して女関係、も何だけどなー」
黒川真帆とはどうだったんだろう。
迎えに行った時はそんな話もしなかったし、良太も慌ててたから、またじっくり話をする時間もなかった。
それに、女、だけじゃないし。
「良太?」
「え?」
「っとに、お前ってやっぱ変わんねーなー」
いきなり笑い出した沢村に、寄った勢いでつられて良太も笑う。
いつの間にか、沢村の呼びかけが広瀬、から良太、に変わっていたのも気づかずに。
「あ、俺が払う!」
「バーカ、プライベートだし、俺のが稼ぎがあるんだ。黙ってまかせとけ」
「まかせたぁ!」
すっかり酔ってしまった良太を、沢村はタクシーでホテルのロビーまで送り届けてくれた。
「おい、しっかりしろよ? 明日、早いんだぞ」
「わかってるって、大丈夫! 今夜はごちそうさまでした!」
頭を下げる良太を抱えながらエレベーターを待っている間に、沢村はボソッと言った。
「良太、俺が野球続けてこられたのは、お前のおかげなんだ。それだけは覚えとけ」
「へ?」
沢村はエレベーターの向こうでにっこり笑った気がする。
翌朝、良太はけたたましいモーニングコールに飛び起きて、その時の沢村の笑顔を思い出した。
取材はばっちりうまくいった。
プレイしている沢村は、昨夜の沢村とは違って、プロの顔でリポートするアナウンサーに接していた。
帰りの新幹線の中で、良太は昨夜のエレベーターの前で沢村が言った言葉を思い返していた。
「確かに、そんなことを言ったような…」
あれは夢ではなかったのだろうとは思うのだが、なにせ酔っ払っていた良太は、イマイチ自分の記憶が信用ならない。
いったいどういう意味なのだろうと、考え考え会社に戻ってきた良太を待っていたのは、藤堂だった。
「どうかしたんですか? なんか顔がいつもと違いますよ」
「いや、ちょっと折り入って良太ちゃんに話があってね」
工藤は帰っているらしいが、どうも藤堂のようすに、オフィスを出た方がいいだろうと良太は提案した。
近くの喫茶店で藤堂が切り出した話は、良太には寝耳に水だった。
「何で?! 鴻池が小林さんを? 一体どういうことなんですか?」
つい声が大きくなってしまった。
「やっぱり君も知らないのか。鴻池さんの話によると、次の映画で小林くんを主演に持ってくる、っていうんだ」
藤堂は鴻池から聞いたことを順序だてて話した。
「冗談でしょ。そんな話どこにもありませんよ。それに、工藤がそんなこと許すはずがないじゃないですか!」
声を抑えてはいるが良太の中で怒りが湧いてくる。
「工藤さんは、小林くんのことを知っているの?」
「知ってるどころか……」
良太は言葉を切る。
「知ってるどころか?」
「小林さんは工藤の一番大切な人なんですよ」
そんな言い方しかできなかった。
「良太ちゃん」
藤堂は驚いて良太を見つめた。
「なるほど。なんだか複雑な事情がありそうだが、鴻池さんは映画というより、彼自身に随分興味がありそうだったよ。ボクの見た限りでは、小林くんの方は、鴻池さんに対してあまりいい印象を持っていないようだった」
そういえば、と良太は思い出す。
いつだったか、雪の日、ふらりとオフィスに現れた千雪が、良太に妙なことを聞いた。
『鴻池さんはほな、あれから何も言うてきてないんやな』
確かそんなことを。
まさか、あれから、鴻池のターゲットが千雪さんに移ったなんてんじゃないよな?
胸騒ぎがする。
「わかりました。ちょっと調べてみますから。ありがとうございました」
良太は早々に藤堂と別れ、オフィスに戻ってきたものの、どうにも落ち着かない。
もう二度と会いたくはない男だったが、仕方ない、と良太は鴻池の携帯を呼び出した。
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