「どうします? 警察に……」
「恐れ入ります。少し中でお待ちいただけますか? どこか別の場所に置いたのかも知れません」
良太が千雪とこそこそ話していると、田口が丁重にそう説明して、ムッとした顔をして男性とその妻をまた中へと促した。
その時、千雪の携帯が鳴った。
「おう、どないした? うん、そうか、わかった。そいつしばらく見張っときや」
「千雪さん?」
良太は訝し気に尋ねた。
「こういうこともあるかと思て、ダチに外を張らせとったんや」
「え?」
「捕まえたて、今」
「捕まえた???」
良太が驚いているうちに、千雪は京助を呼び出した。
やがて京助が二人のところへ現れた。
「ここで警察沙汰はまずいやろし、誠が仲間と車追っていきよって、捕まえたらしいで」
「クッソ、あのガキ、村野と小谷がつるんでるって?」
京助が吐き捨てるように言った。
「で、やつら、どこにいる?」
「手分けして探してどこか、談話室、空いとるよな? あそこに連れてこよか」
聞いてきた京助に千雪が提案した。
「談話室か」
緊張しながら良太は呟いた。
「誠が窃盗犯二人、自分の車で連れてくる、言うてた。諏訪の森公園あたりで追いついたらしい。車はダチに丁重に運転させて持ってくるて。傷つけたりはしてないやろ、売り物にするんやったら」
「千雪、車が戻るまでここで待ってろ。戻ったら、一応中点検してから、田口に言って客人に車を返せ」
京助が言うと、千雪は「せやな」と言って、携帯で誠にその旨を伝えるため電話をかけ始めた。
「良太、小谷を見つけて、京助が呼んでるとか言って、連れて来い。俺は村野を探して連れてくる」
京助の命令に、良太も真剣な顔で、わかった、と頷いた。
良太はホールに戻って、招待客の間をかいくぐるようにして小谷を探した。
千雪も京助も招待客が大勢いる手前、大事にしないようにと静かに動いているらしい。
それにしても千雪の推理力というか、想像力にはあらためて感心せざるを得ない。
昨日、車からちょっと村野と小谷、それにオッサンを見かけただけで、知り合いに見晴らせるとか、普通なら考えもつかないだろう。
しかし考えてみれば、警察というのは何か事件が起こってからじゃないと動かないし、残っている証拠から科学的に証明してから容疑者を割り出していくことしかできない。
だからストーカーの被害届を出していたにも関わらず、襲われるとかいうことになる。
千雪の場合、これだけの錚々たる顔ぶれのセレブが集ることと昨日の三人のようすから、もしかしたらと考えて予防線を張ったからこそ、窃盗犯を捕まえることができたのだ。
でも窃盗犯捕まえたって、いったいどういう知り合い?
良太は首を傾げた。
よほどの手練れがいるってことだろうか。
良太はそんなことを考えながら、小谷を探した。
あ、いた。
小谷はちょうど工藤や藤田、理香、それに紫紀ともう一人品のいい初老の紳士の近くにいた。
小谷が彼らから離れたところを見計らって、良太は声をかけた。
「小谷さん?」
「はい。何か御用でしょうか?」
小谷はにっこりと営業スマイルを向けた。
「忙しいところゴメン、実は京助さんから頼まれて」
「え、京助さんに?」
途端に、嬉し気な態度に変わった。
「小谷さんを連れてきてほしいって。ちょっと一緒に来られるかな?」
良太も、いつぞや演技で悩んでいた本谷に、そのまま普通でやればいい、などと偉そうなアドバイスをしたことを思い出しながら、極力自然な笑顔を作った。
俺だって一度くらいはドラマに出たことがあるんだからさ。
「はい!」
満面な笑顔で小谷が返事をした。
騙しているのがちょっと申し訳ないが、仕方がない。
良太は小谷に不自然に思われないよう、目いっぱい笑顔を向けていたので、その様子を工藤が見ていたのに気づかなかった。
何だ、あいつは。
あんな女にデレデレしやがって。
目を眇めるようにして良太と小谷を睨み付けていた工藤は、自然と怖い顔になっていた。
「工藤さん、どうかなさったの?」
そんな工藤を見て、理香が尋ねた。
「あ、いや、知った顔があった気がしたが違ったようだ」
あの野郎、いったいどこに行くつもりだ。
イラつきながら工藤は良太を見たが、やがてリビングを抜けたところまでしかわからなかった。
「ここで待ってて下さいますか?」
良太は談話室のドアを開けた。
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