鬼の夏休み26

back  next  top  Novels


 談話室では千雪が電話をしていた。
「ああ、おおきに、お疲れ」
 千雪の電話が終わると、良太は言った。
「京助さんら車で村野と小谷連れて裏門から出て行きましたけど」
「ああ、悪いな、お客さんに手ったわせて」
 千雪は苦笑した。
「いや、俺はお客ってほどでも。ひょっとして警察行ったんですか? 知り合いが捕まえたって?」
 良太は聞いた。
「ああ、ダチとその仲間、まあ、ちょっとバイクのテクがある連中四、五人で車追って、のっとった男二人、引き摺りだして、捕まえたて」
「バイクだけじゃなくて腕っぷしも強いとか?」
「らしいな。一人、ITにメチャ強いやつがおって、そいつの言うには、コードグラバーとかいうンを使うて、スマートキーの電波を読みこんで車盗むんやて」
「うわ、すげえスキル」
「まあな。どうやらキーを返すのに時間かかったのは村野がキーの電波を読ませよったかららしわ」
 千雪は険しい表情で言った。
「ダチが捕まえたオッサン、昼に見たやつらしけど、村野には車の窃盗に加担させて、小谷とか女の子何人かにはパパ活と称して引っ掛けた男から金を巻き上げさせよったみたいや」
「ひえ………。でも俺も、金のためにパパ活もどきやってえらい目にあったからな。他人事じゃない気がする」
 良太はしみじみと言った。
 すると千雪が笑った。
「そやったな、会社の前でボロボロになっとったもんな」
「笑いごとじゃないっすよ」
 良太はムッとする。
「けど、ええ薬になったんちゃう?」
「いや、でも、俺、工藤さんに助けられてなかったら、あいつらと同じ道辿っていたかも」
 憮然として良太は言った。
「どやろ、良太は自分から逃げ出したわけやから、そうはなってないやろ? それに良太なら、工藤さんやのうても別の誰かが助けてくれてたって」
「それ、楽観過ぎ」
 良太は苦笑する。
「事実やで。お前、芯がしっかりしとるよって、やつらみたく落ちたりせえへんて」
「まあ、俺のことはいいですけど、車、お客さんに返してしまっていいんですか?」
「この屋敷から盗んだ車の他に何台か盗んで保管しよった場所を、ダチが突き止めたよって、ええんや。パーティの最中に綾小路で騒ぎは起こしとうないから、警察にどうしてもて言われたら、明日にでも代わりの車差し出せばええ」
 千雪は気楽そうなことを言う。
「はあ、白のベンツとかあるんですか?」
「ダチがディーラーやってんね。大抵の車は用意でけるみたいや」
「ほんとですか? 千雪さん、いろんなご友人がいらっしゃるんですね」
「車、必要な時はいつでも紹介したるで」
「はあ、今んとこ、仕事で乗りまくってるし、自分の車とかはいいです」
 良太は心から遠慮した。
「まあ、ジャガーは良太の車みたいなもんやしな?」
「いや、別にそういうわけじゃ………」
 からかいを含んだ千雪の言葉に、良太は口ごもる。
「いずれにせよ、紫紀さんにはパーティが終わってから報告しとかなあかんな」
「はあ」
 良太はとりあえず、工藤に何も言わずに動いていたので、それこそ報告に戻ろうと、談話室を出た。
 工藤は少し移動していたが、やはり紫紀と一緒に、今度は誰か別の二人と話していた。
 理香も藤田ももうそこにはいなかった。
 良太を見つけた工藤は険しい顔をしたが、すぐに表情を変えて、話に戻った。
「ああ、いいところにきたね。浜村さん、青山プロダクションの広瀬くんです」
 紫紀が良太を認めるとすぐに二人の男に紹介した。
 浜村と呼ばれた男は五十代くらいだろうか、穏やかな顔つきのスマートな男だった。
 その横にいるのは少し若い感じのガッシリタイプの男である。
「広瀬くん、こちらは京浜ホールディングスグループの浜村会長と渡良瀬社長です」
「初めまして、広瀬と申します」
 すかさず良太はポケットから名刺を取り出して、二人と名刺を交換する。
「おや、プロデューサーをやっておられる」
 浜村がにこやかに尋ねた。
「はい、まだまだ若輩者ですが勉強しながら仕事をやらせていただいております」
 良太ははっきりとした声で答えた。
「いや、なかなか将来楽しみな社員さんをお持ちですね、工藤さん」
「ええ、私が外に出ることが多いので広瀬が社の方を切りまわしております」
 工藤も真面目な顔で言った。
「なるほど、懐刀というわけですね」
 紫紀が工藤に紹介しようと言っていたのがこの二人だろうと良太にもわかった。

 


back  next  top  Novels