「おそらく……工藤の友人として言えば、この手の女に工藤が興味を持つとは思えない。何らかの事件に巻き込まれたか、何らかの理由ではめられたか、どちらかだろう」
小田が言った。
「警察はそのクラブのママを痴話喧嘩で工藤さんが殺したとかミスリードされているうちは、真犯人には辿り着けない、いうことです。つまり初動捜査の段階で後れを取っているわけです。こっちは工藤さんははめられたという大前提で動きますから先に真犯人に辿り着きますわ。ただし、もう迅速に動かんとあきまへん」
いつになく千雪の言葉がきつかった。
「良太、パソコン、ちょっと貸してや」
良太は慌てて自分のノートパソコンを千雪に渡した。
千雪は、パソコンに自分の携帯をつなぐと、ミラーリングで画像データを次々と大型テレビの大画面に映し出した。
「これが殺された六本木のクラブ『ベア』の松下美帆、被害者の美帆のことは、捜査一課の渋谷さん脅して聞き出したんで、『ベア』の周辺、ダチに探ってもらってます」
皆が一斉に千雪を見つめた。
「『ベア』は松下美帆がオーナーママいうことになってますけど、中堅建築会社社長の友成陽介五十七歳が店の資金二千万出してて、こいつがママの男やいう噂らしいです」
千雪は店の外観や、店内の画像、それから友成の写真を画面に映し出した。
「こっちはセントラルハイアットホテルのバー『スマイル』と、そのバーテンダー田島、スタッフの加藤、レジの井坂、このスタッフの加藤が工藤さんを松下美帆と一緒にホテルの部屋に運んだいうことです」
『スマイル』の店内、スタッフらの顔写真がずらりと画面に映し出された。
「いったいいつの間にこんな情報を」
小田も驚いている。
怖ろしく短時間にこれだけの情報を集められるのだから、工藤が千雪に最初に連絡を入れたことを良太も納得せざるを得ない。
秒単位でも遅れを取っていられないのだ。
「工藤さんから動画を受け取ったのは九時を回った頃やったから、すぐにこれらの店にダチをやったんです。警察は工藤さんを犯人と決めつけてますし、あいつらが裏取りするよりも早く動いてます」
きっぱりと千雪が言った。
「何だか千雪さん、警察を目の敵にしてるみたいだね?」
秋山が言った。
「そら、あんなアホな連中に任せとったら日本は冤罪天国になってまいますわ」
さらにきつい千雪の言葉に、そういえば昔、千雪は冤罪で逮捕されかけたと聞いたのを良太は思い出した。
時々千雪はあの綺麗な顔で、恐ろしいことを平気で口にすることも、良太は知っている。
その時、オフィスのドアが開いて入ってきたのは、千雪の相棒とされる綾小路京助だった。
良太は思わず立ち上がって、京助を認めるとまた座り直した。
「ホテルの方は、もう店じまいしたが、警察が来て話を聞いてったぜ」
どうやら『スマイル』を調べていたのは京助だったようだ。
「型通りの聞き込みしかしてないし、あれで犯人なんか見つかるわきゃないだろ。刑事が帰ってから聞いたら、工藤を女と一緒に部屋に連れてった加藤ってのが、女とちょっと話したってよ」
「何を話したて?」
「女が、工藤のことを自分の男だみたいな口ぶりで、酒に弱くてすぐ酔っぱらうとかって」
千雪の問いに京助が答えると、小田が笑った。
「グラス一杯で工藤が酔うとかあり得ない。女が薬を入れたんだろう。一応、工藤の血液検査はするようだが、おそらく自分で飲んだとか警察は言い出しそうだな」
「まあ、工藤さん、目の敵にしとる連中やから」
千雪の言葉に、良太ははっとした。
そうだ、警察はおそらく工藤のことを鬼の首を取ったかのように犯人だと決めつけているに違いない。
良太は唇をかみしめる。
「それと、工藤にかかってきた電話を取り次いだのもその加藤ってやつで、男の声で名前は名乗らなかったってよ。刑事さんらは、そんなことも聞きやしなかったみたいだぜ」
フンと京助は鼻で笑った。
「多分、その加藤ってやつは事件とは無関係だろうとは思うが、ホテルの連中ももう少し突っ込んで調べてみる」
「うちでもホテルとクラブの周辺で聞き込みをする。誰か何か見ているかもしれん」
京助の話を受けて小田が言った。
凶器を握って現場で逮捕されたことを考えると、工藤がはめられたという明確な証拠か真犯人を見つける以外に工藤を釈放する手段はないと思われた。
良太は小田や千雪らの話を口を出すこともほとんどなくじっと聞いていた。
誰かにはめられたのは百パーセント確かだ。
少なくとも良太の中では。
おそらく千雪も同じなのだろう、あの素早い行動力は警察の無能さを一刀両断するくらいの怒りが感じられる。
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