幻月11

back  next  top  Novels


 絶対会うと、良太が意気込んでいたにも拘わらずことはそう簡単ではなく、翌日、小田に確認したところ、今はまだ弁護士以外接見できないと言われてしまった。
 実際よく卒業できたというくらいな良太だが、一応自分が勉強したことに関しては覚えている。
 記憶力はいいはずだが、それをおしてでも何とかしたいという思いは届かなかった。
「逮捕されて間もないし、工藤が容疑を否認している限り、接見は難しいよ」
 千雪ではないが、良太は警察に対してコノヤロウと罵った。
 日本のドラマなんかでは正義の味方のように扱われていることが多い警察だが、今初めて警察こそが悪じゃないかと思ってしまった。
 千雪がこき下ろしていた心情がよくわかる。
 良太はとりあえず自分がしなくてはならないことをした。
 社員に連絡を取ったところ、全員が集まってくれた。
 鈴木さんをはじめ、小笠原と真中、志村、小杉、奈々と谷川は撮影が一週間後に京都で再開されるがそれまではこちらで各々仕事をこなしていた。
 それに秋山とアスカ、平造、これが全社員とタレントである。
 良太は慎重に説明をした。
 工藤が殺人事件で逮捕されたこと、本人は否認しており、薬を盛られたらしくはめられたのではないかということ、小田が接見に行っていること。
 皆は一様に神妙な顔でじっとそれを聞いていた。
 もしかすると、社員の中には、特に元刑事の谷川などは、工藤を信用できずに仕事を辞めると言い出すかもしれない、良太はそういったことも覚悟の上で端的に話をした。
「フン、そりゃ、警察は完全に社長をクロとして立件するつもり満々じゃないのか」
 良太の説明を聞いた後、そんなことを言ったのは谷川だ。
「俺も、実際社長と仕事をしてみなければ、クロで押し通しただろうが。とにかく、今は俺、できる限り昔の知り合いに当たってみる。薬を盛ってまで社長を陥れようとしたのが誰か、真犯人でも突き止めない限り、かなり難しいが、警察がクロで押すんなら、こっちはとことんシロってことで、探ってみようじゃないか」
 やはり、と思った良太をいい意味で裏切って、谷川は頼もしい発言をしてくれた。
「だよな。俺も社長には世話になってっからよ。こんなとこで、工藤に引導を渡されてたまるかよ」
 小笠原が声高に言った。
「そうですよね! ありがとうございます!」
 良太はまた皆に深々と頭を下げた。
「話にもあったように、警察より早く、千雪さんらが動いてくれて、情報を集めています。我々は仕事を怠ることがないように、社長の留守を守るのが先決です」
 秋山が淡々と言った。
「とにかく我々はきっちり仕事をしましょう」
 良太が秋山に続けて拳を握りしめた。
「おい、良太、お前肩に力入り過ぎ。それに、お前が倒れでもしたら、それこそ会社ズダボロになるからな、俺にやれることは何でも言え」
 小笠原が断固として言い放った。
「わかった」
 それぞれが仕事に戻っていくと、鈴木さんがコーヒーを入れて良太のデスクに置いた。
「とにかく無理しちゃだめよ」
「ありがとうございます」
 いつもながらに鈴木さんの思いやりは身に染みて伝わってくる。
 平造は寡黙にただ、皆にお茶を入れたりと動いていたが、何かしていないと落ち着かないのだろう、裏庭の手入れをすると言って出て行った。
 そういえば、平造さんは刑務所に入っていた経験があるんだっけ。
 良太も以前工藤に聞いたことがあるが、平造が罪を犯したわけではなく、組長か誰かの身代わりだったと、工藤はそのことに対して憤りを持っていたようだ。
 何も罪を犯したわけでもないのに、何年も刑務所で暮らし、出てきてからはひたすら工藤の面倒を見ていた。
 曾祖父が亡くなりやがて曾祖母が亡くなる前に、密かに平造を会わせたその娘の多佳子は、平造は前科ありとなっているが、実際は平造は真面目な男で、身代わりになっただけだと伝えて曽祖母の信用を得ると、当時の工藤家の弁護士森山を後見人に、工藤を平造に託したらしい。
 そこのところは詳しくは聞いてはいない。
 平造や工藤が、ほんのたまにぽつりと、当時のことを漏らすのを良太が耳にしたというだけの話だ。
 深く追求するべきものではないような気がして、話してくれた時に聞くようにはしている。
 その平造の心のうちはいかばかりなものか、良太も慮った。
 平造は実に工藤に忠実に仕えてきた男のようだ。
 前に平造がぎっくり腰をやった時に、良太は工藤に思わず、親みたいなもんじゃないのか、などと生意気なことを言ってしまった。
 だが、実際工藤にとっては親以上の存在ではないかと思うのだ。
 何もできずに手をこまねいていることが平造にとっていかにもどかしいか。
 良太にも痛いほどわかる。

 


back  next  top  Novels