「谷川くんも調査に協力してくれている」
「そうか」
小田の言葉に工藤はぼそりと返した。
「そうだ、良太くんからお前に伝えるように言われていたんだ。仕事の話だ。フジタ自動車の打ち合わせと、MEC電機から奈々ちゃんをCMに使いたいということで、プラグインの藤堂さんと一緒に打ち合わせをしたそうだ」
手帳を見ながら小田は良太から言われたように工藤に伝えた。
すると工藤は小田をしばし見つめたあと、少し目を眇めて視線を外した。
なるほど、良太に連絡を取ってきたか。
工藤は波多野の無表情な顔を頭に思い浮かべた。
あの男が動いていたか。
ということはやはり事件の裏でやつらが絡んでいたということか。
下手なことにならなければいいが。
それより良太だ。
あのバカ、また向こう見ずなことをしなければいいが。
「小田、良太に言っておいてくれ。仕事のことだけ考えて向こう見ずなことはするなってな」
「ああ、それは俺も危惧している。言っておく」
接見を終えた小田は、最後の工藤の顔が気になった。
異様にクールダウンした気がする。
「しかし、万が一などふざけるなって。俺を見くびるなよ」
車のエンジンをかけながら、普段温厚な小田がイラついてハンドルを拳で小突いた。
二四六に入った時、ハンズフリーにしている携帯が鳴った。
「先生、男の素性がわかりました」
事務所の遠野からだった。
「わかった、すぐ帰る」
オフィスに戻ると遠野と司法書士の安井が小田を待ち構えていた。
「どうも、お邪魔してます」
傍にいたのは谷川だった。
「谷川さんが探し出してくれたんです」
勢い込んで言った遠野が、パソコンの画面に男の写真を何枚か並べた。
「昔俺に協力してた情報屋がこっちにいる知り合い経由で男の素性掴んでくれました」
「ありがとうございます」
谷川に礼を言って小田は画面をのぞき込んだ。
「木戸彰、三十五歳、詐欺、暴行、恐喝の前科あり。二度ほど刑務所に入ってます。田口紀佳とは高校の同級生で、近年再会しどうやらここのところは田口のひも状態で田口の部屋に入り浸っているようです。一方友成は金曜日に田口の部屋を訪れています」
谷川は木戸について説明した。
「今、千雪さんのダチと俺のダチとで木戸と田口の双方に張りついています」
遠野が言った。
「防犯カメラの方も収穫ありました。ホテル内と周辺のいろんなとこのカメラを片っ端から見せてもらって、見つけました! 男も、女の方も」
安井はホテルの防犯カメラや周辺でカメラを設置している店などでダウンロードした画像をタブレットに並べた。
残念ながらホテルの客室フロアにはカメラは設置されていない。
木戸は千雪の言った通り、女が殺されたとされる時間の一時間ほど前に大きなスーツケースを引いてチェックインし、翌朝チェックアウトし、駐車場から車でホテルを出たようだ。
木戸は西早稲田のボロアパートに住んでいて、誰かと一緒でもなく一泊数万円ものホテルに泊まるには何らかの理由があったはずだ。
車は赤のBMWで、所有者は田口だと調べがついている。
ホテルを出てから二時間ほどで田口のマンションに着いているが、その間木戸がどこに行ったかはわかっていない。
田口は全身黒ずくめのスーツでホテルを出たのが犯行時間とされている時刻より三十分ほど前、結婚式のパーティ一行がちょうど解散して帰っていく人々に紛れるように徒歩でホテルを出て少し歩いたところでタクシーを拾っている。
「このでかいスーツケース、何入ってたんか、気になりますよね」
安井が言った。
被害者の松下美帆は殺される三時間ほど前にタクシーで店に寄ったが、チーママの清水美咲の言うには美帆はまたすぐに店を出たということで、ホテルのバーに現れるまでの足取りは掴めていないと谷川は言った。
「クラブ『ベル』のチーママもちょっと気になるんで探りを入れてるところです。工藤さんと松下美帆が付き合っていたと証言したのは、チーママの、いや、今はママになったらしい清水です。その事実がないのだから、彼女はウソをついていることになる」
谷川は断言した。
「確かに。とにかくよろしくお願いします。何かまたわかりましたらご連絡ください」
オフィスを出る谷川に小田は丁寧に頭を下げた。
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