小田にとっても工藤は大学時代から二十年来の腐れ縁だ。
しかも小田は工藤の会社の顧問でもある。
これまでにも色々と面倒ごとはあったが、今のこの状況は最悪だ。
だからこそ、工藤の性格も生い立ちも、それにこれまでの工藤の生きざまをも間近で見てきた人間として、明らかな冤罪を晴らさないでは気が済まないのだ。
真犯人がわかったとしても、立件できる証拠がなければ工藤を出してやることができない。
おそらく冤罪を晴らせない可能性が一パーセントでもあることを考えて、工藤は会社を良太や秋山にというようなことを口にしたのだ。
弱気になったわけでもなくあくまでも冷静に客観的に物事を見ているだけ、工藤は落ち着いているといえる。
とにかく時間が限られている。
何とか、糸口を掴むことができれば。
小田はいつの間にか眉間に皴を寄せていた。
「先生、怖い顔になってますよ」
デスクにコーヒーを置いて安井が言った。
「ああ、ありがとう」
安井や遠野も工藤が会社を興した頃からの付き合いだ。
「絶対、真犯人みつけますから!」
工藤、お前、自分が思っている以上に周りの人間には恵まれているぞ。
小田は広くなった額を癖で撫でてから、コーヒーをぐびりと飲んだ。
「先生、青山プロの鈴木さんからお電話です」
鈴木さんがわざわざ電話をかけてくるとは何だろう、と怪訝そうに受話器を取った。
「そうですか。わかりました。私もそちらに向かいます」
小田は電話を切って立ち上がった。
「何かあったんですか?」
渋い顔の小田に、遠野が聞いた。
「警察が会社までやってきて、工藤の部屋やオフィスを引っ掻き回しているらしい。まあどうせ、何も出やしないがな」
良太も出払っていて、鈴木さんが一人らしかった。
小田がオフィスに着くと、ちょうど刑事が二人、工藤の部屋から降りてきてオフィスにまた立ち寄ったところだった。
滅多なことでは狼狽えることもない鈴木さんだが、彼女にしては怒り心頭といった目を二人の粗暴なやり方の刑事に向けていた。
「何か、出ましたか?」
年配の刑事と若手の刑事の二人組はやってきた小田の顔を見るとあからさまにムッとしたような顔をで頭だけ下げた。
「ちゃんと元通りにしたんでしょうね?」
小田が去っていく二人に声をかけたが、返答もなかった。
「工藤が無言を貫いているんで、出向いてきたんでしょうが、何も出るわけがない」
それに鑑識らも引き連れた大掛かりなものではないから、おそらく今の刑事が何が何でも工藤をムショ送りにしたい輩なんだろう。
小田は二人が出て行ったドアを睨み付けた。
「小田先生、わざわざありがとうございます」
憤慨している小田に、鈴木さんもまだ怒りが収まらないといった声で言った。
「とりあえずどうぞ、せっかくですからお茶を今お持ちします」
キッチンに向かう鈴木さんを目で追いながら、小田はふうと大きく息をついた。
つい焦ってきてしまったのは、証拠の捏造でもされたらという危惧があったからだ。
工藤に対しては全くないとは限らないと思われた。
千雪ではないが、かつて、桜木元議員を政界から追い出した時以来、小田もまた警察を信用していない。
結局大した罪に問えなかったのは、明らかに警察内部に桜木と通じている者がいたからだ。
それは検事の荒木とも同意見だ。
桜木元議員は表舞台からは消えたがフィクサーとして裏で暗躍し続けている。
工藤をおそらく未だに目の敵にしているに違いない。
全く敵の多いやつだ。
「美味い、鈴木さんの入れるお茶はほんとに美味しいです」
小田はようやく少し落ち着いたらしい鈴木さんを見て笑った。
そんな一件和やかなオフィスだが、実は刑事らを垣間見て、青山プロダクションの様子がただならないことに気づいた者が約一名いた。
「どういうことよ!」
思わず呟いたのは佐々木オフィスからお遣いを頼まれてやってきた、池山直子だった。
車から降りようとした直子は、刑事らしい男が二人、オフィスから降りてきたのに気づいた。
「工藤のやつ、うまいことかくしてやがるに違いない!」
「何しろ、あの中山組長の甥ってくらいだからな」
「でも、あれだけはっきりした証拠があるんだし、確実にムショ送りにしてやりますよ」
刑事たちは誰もいないと思ったのだろう、何となく気になってパワーウインドウを降ろした直子に聞かれているとも思わず、駐車場の前でそんなことを話してから立ち去った。
とりあえず、仕事関連の書類を良太に渡さないわけにはいかないので、直子は今しがた来たばかりのように努めて明るくオフィスのドアを開いた。
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