サンタもたまには恋をする16

back  next  top  Novels


「物が増えたわね。あたしがあげた冷蔵庫も使ってるんだ。あ、あたし、松井さやか。義行とは大学からのつき合いなのよ」
 どうやら藤堂と親しいのだと言いたいらしい。
 彼女、ではないようだが、藤堂のことを好きなのだろうか。
「そういえば、義行ってば、マミとかってモデルにはかなり入れ込んでいたけど、ふられちゃったみたいねぇ。長谷川美香とはうまく行ってるのかしら?」
 彼女の言葉は悠の心をイチイチひっかいていく。
「そんなこと、俺は知らねぇよ!」
 何だよ、マミって!
 今まで考えてもみなかったが、確かに藤堂に恋人がいても不思議はない。
 だが相手が女優とは思いもつかなかった。
「そ? ま、いいわ。じゃ、義行が帰ったら、また飲みに行こうって言っといて」
 さやかは言うだけ言ってさっさと帰っていった。
 いったい何をしにきたんだ? とは思うものの、悠の心の中にどんどん得体の知れない暗雲が広がっていく。
「何だよ、何で俺がおたおたするんだよ!」
 英報堂。
 名前ぐらい悠でも知っている。
 どおりでエリートの匂いがすると思ってた。
 だから何だって? 何で俺があいつのことでイチイチ動揺しなくちゃいけないんだよ!
 冗談じゃねー…
 唐突に、藤堂の指が唇に触れた記憶が蘇る。
 あの時、思わずからだが震えてしまった。
 驚いたからだと、自分に言い聞かせていた。
「あー、うるさいうるさい、散れ!」
 抑えようとすると余計に血液が騒ぎ出す。
 藤堂が自分にだけ優しいわけではないことはわかっているはずだ。
 藤堂に恋人がいたからって、どうでもいいことじゃん。
 俺には関係ねーじゃん。
 だいたい、俺、男だし。
 そう思いながらも、心の中でまた新たな不安がトグロを巻く。
「なんだよ! どうしたんだよ、俺!」
 カンバスの前に座ってもちっとも絵は進まなくなった。
 次の日も同じで、悠はぼんやりと、リビングの真ん中に座っていた。
 藤堂は一週間の出張だと言っていた。
 どことは聞かなかったが、海外に違いない。
 いや、部屋にいていいと言った手前、厄介な居候を無碍にもできず、今頃、彼女と羽を伸ばしているのかもしれない。
 そうか。
 そうだよな。
 夕方になるとアイちゃんがキュウンと散歩の催促をする。
「よし、行くか」
 嬉しそうに尻尾を振るアイちゃんを連れて悠は外に飛び出した。
 アイちゃんの世話は藤堂との約束だし、きちんとすませなくちゃ。
 でなくても、アイちゃんといると心が和む。
 だが、わけのわからないもやもやに心を占領されて一向に筆が進まないまま、また夜が来た。
「何なんだよ、どうしたってんだよ……俺」
 筆を放り出すと、悠はソファベッドにひっくり返った。
 斜め向かいにある、いつも藤堂がアイちゃんをブラッシングしたりして寛ぐソファには今、アイちゃんだけが眠っている。
 急にひどく寂しくなって悠は毛布の中にもぐりこんだ。

 

「おう、ハル、元気してたか?」
「ハルちゃんボックスにお菓子一杯入れといたからね」
 久々の大学で、仲間たちの顔を見ると、悠はちょっとほっとした。
 これで飯倉さえいなければ、めちゃ楽しい学生生活なのに。
「よう。心配してたんだぜ、急に出て行くから。こっちにも出てこねーし。ほんとにあの、藤堂ってやつんとこ、転がり込んだのか?」
 悠を見つけて、高津がやってきた。
「………うん、まあ……、責任がある、とか言っちゃって、あいつ。絵もそこで描かせてもらってる」
 高津は、がしっと悠の肩を抱いて顔を覗きこむ。
「まさか、置いてやる代わりに、とかって、あのおっさんに、変なことされてねーよな?」
「な、何だよ、変なことって! お前こそ、変なこと言うなよ!」
 焦って悠は言い返す。
 何でそこで焦るかよ……
 自分の心が勝手に暴走していくような気がする。
 悦子は一五〇号に、猫や花をちりばめているのだが、彼女が描いている花は、いつぞや悠が藤堂に押しつけられたバラだ。
 捨てることもできず、アトリエに持ってきたところ、悦子が画材にするというのでドライフラワーとなっていた。
「面白れぇな、高津、やっぱ立体にして正解じゃん」
 悠は高津の作っている高さ三メートルもありそうなオブジェに近づいて眺め回す。
「お前、こいつ元はペットボトルとかなんだだぜ。それに紙粘土くっつけるのに結構かかったんだ。題して、『リサイクル1』」
「高津、タイトル、芸なさ過ぎ」

 


back  next  top  Novels