好きだから18

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「へ、沢村かて良太言うてるやろ」
 悪びれない顔で八木沼が言った。
「俺とこいつはガキの頃からのつきあいなんだよ。お前、ちょっと番組でたからって図々しいんだ」
「俺なんか、もう今年十回もパワスポ出てん。十分慣れてええやん。な、良太」
「十回だと? おい、良太、何で俺を呼ばないんだ? 四回しか出てねーだろ」
 良太は二人を両手で抑える仕草をしながら、「話が低レベル過ぎ。沢村、お前、クレバーなイメージで売ってんだぞ」と沢村を睨みつける。
「るせーな、俺はこれが素だ! 芸能人じゃあるまいし、イメージなんか勝手にマスコミが勘違いしてるだけだろうが」
 沢村は開き直る。
 すると、そうそう、と八木沼が頷いて笑う。
「俺も沢村て、無口で近寄りがとうてとっつきにくいて、健さんみたいなオーラある人や思うとったら、話してみたらこんな感じやし」
「健さんて、往年の名優、高浦健のことですか? あはは、ないない!」
 良太が思い切り笑って否定する。
「なあ、ほんま、見かけと中身ちゃうし!」
「お前、生意気なことばっか言うんじゃねーよ」
 沢村が誰かとつるむというのは滅多にないことだと、良太も思っていたが、沢村が睨みを利かせても動じることもない八木沼の泰然自若とした性格だからなのだろう。
 加えて人懐こい笑顔は女子でなくても可愛いと思う。
「そういえば、沢村の彼女、中川アスカやて? 俺に隠さんでも水臭いわ、俺、大事なことは口カタイで? 彼女、良太の事務所なん? やからかあ。ええなあ、あんな美人さん、けど、彼女、結構性格きついて、女の子らゆうとったけど」
 急に、八木沼がアスカの話題を振ったので、良太は、ええ、まあ、と言葉を濁す。
「アスカさんは、歯に衣着せない人だけど、表裏ないし、あれで結構正義感強くて見て見ぬ振りができないタイプなんですよ」
 ちょっとお節介が過ぎることもあるが、と良太は誤解されたままでは可哀そうだとアスカを弁明する。
「あれえ、ひょっとして良太もアスカのこと好きやったとか?」
「え、いや、そういうんじゃなくて……」
「あああ、やっぱそうなんや、親友と彼女とトライアングル!」
「いえ、ほんと、俺にはアスカさんは手に余りますよ、きつすぎて」
 褐色の肌に天パーの髪を揺らせる八木沼の笑顔は憎めない。
 まあそういう想像になるのが普通なのだろうが、かつては別のトライアングルっぽいこともあったな、と良太はふと思い出した。
 あの時の沢村は自分の気持ちを勘違いしていたんだろうと思ったのだが、ひょっとしたら本気だったのかもしれないと、良太は今になって考え直した。
 沢村は嘘が嫌いなやつなのだ。
「そういえば、アスカもハーフやろ?」
「アスカさんはクォーターみたいですよ、お父さんがフランス人とのハーフで、お母さんがアメリカ人の帰国子女だって」
 どちらかというと酒を飲む方の沢村に対して、八木沼は出てくる料理を片っ端から清々しいくらいに美味い美味いを連発して食べまくる。
「なるほヨーロッパ系いうやつ? きれいやし。同じハーフでも俺みたいのとは天と地ぃやな。俺なんか、ガキン頃は、クロ、クロいわれよって、兄貴がおらんかったら、俺、完ぺきグレとったもん」
 辛いはずの話なのに八木沼はニコニコ笑っている。
「お兄さんがグレないように八木沼さんを守ってくれたとか?」
「ちゃうちゃう、逆や。そらもう、兄貴、半端ないグレまくりで、一時はあの界隈牛耳っとったもんな、ガタイでかいし、顔怖いし、問題起こすとかしょっちゅうで、ヤーさんにもメェつけられたし、俺なんかビビリまくりやった」
「え、まさか、お兄さん、ヤのつくお仕事とか?」
 よもやと思いつつ良太は尋ねた。
「それが、オカンが、妹の真矢が後ろ指刺されるようなマネすんのやったら、ウチ出ていけ言うて、兄貴の半分くらいしかない小さい身体でタンカ切りよって、それから兄貴のヤツ毒気抜かれたみたいにおとなしゅなってしもて」
「へえ、いいお母さんですね」
 世の中には何事にも動じない女性がいることは良太はよく知っている。
「オカンいうても、俺と兄貴には二番目のオカンやけど。俺らのオカンは物心つく前にアメリカ帰ってしもたから。けどこれがまた今のオカン、できたオカンで」
 八木沼はそこでグラスのビールを飲み干すと、また良太に注いでもらいながらにっと笑う。

 


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