「でもほら、他のみなさんはそそくさとお帰りになって、高校生かしらって思った良太ちゃんが残ったでしょ? 頑張り屋さんなのねって感心したのよ」
がんばりやさん………
良太は思わず反芻する。
「でもほんと、ご縁って不思議よね。その可愛いかった良太ちゃんが、今ではこの会社の司令塔ですものね」
思い切り持ち上げられて、良太は、「いや、司令塔なんて……ハハハ」と照れ笑いをする。
この会社には色々な人がいるが、この鈴木さんを採用したことは、工藤にしては非常にポイントが高かったのではと良太は思う。
品がいいだけではない、育ちがいいというのか、どんな人間にも分け隔てをしない。
パソコンのアプリも懸命に勉強して、今やエクセルの達人という頑張り屋はそのまま鈴木さんに返したい。
言葉遣いは丁寧だし、欲がない、優しい、何より、滅多なことでは動じない。
何しろあの工藤に、小言と思われないような口調で小言を言うし、工藤も鈴木さんには頭が上がらないようで、言われると大抵素直に従う。
それだけでもすごいと良太は感心する。
そんな人とこの会社で出会ったことも、縁てやつなのかな。
「こんにちは~」
鈴木さんと良太がお茶を飲みながら昔のことなんかを話していると、オフィスのドアを開けて美人が一人入ってきた。
「万里子さん、いらっしゃい」
鈴木さんが立ち上がった。
良太も会うのは久しぶりだ。
小野万里子はいわばこの青山プロダクション所属俳優第一号といってもいいだろう、紆余曲折あって、大御所俳優の山内ひとみの口利きで事務所を開いたばかりの工藤に紹介された。
当時工藤は制作以外に手を広げるつもりはなかったのだが、元恋人で今や悪友であるひとみにごり押しされて、万里子を引き受けた。
前の事務所の社長と泥沼不倫で事務所を辞めた万里子は、一時仕事もあまりなく、まだ鈴木さんが入る前で、受付の電話さえ平造が取っていた頃のオフィスで、事務所員のように電話番などをしていたりした。
まだ工藤がキー局のプロデューサーだった頃、万里子を起用したこともあり、知らない間柄ではなかったが、会社が船出したばかりでスポンサーや制作関係者の間を駆けずり回った上に万里子のマネジメントまでと、工藤はそれこそ今よりもっと大車輪のように動いていた。
やがて工藤の大学の同期であり会社の顧問弁護士でもある小田の紹介で入社した菊池が万里子のマネジメントを、さらに同じ頃鈴木さんが入ってくれたため、平造のオフィス業務は終了し、軽井沢に帰った。
その後局時代の悪友下柳の勧めで志村義人を事務所で預かることになった。
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