秋の陽3

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 ただし、志村と同じ劇団にいた小杉が志村のマネジメントをやってくれることになったので、工藤の負担がさほど増えたわけではないが、制作関係が忙しくなり、工藤は飽和状態だった。
 その頃の万里子は徐々に仕事も増え、順調に人気も取り戻し始めていた。
 あまりに忙しそうな工藤を見ていた万里子は、個人事務所の設立を提案した。
 二人は話し合い、今後も仕事で協力していくことを前提にマネージャーの菊池とともに万里子は独立し、工藤の手元を離れた。
 それから間もなく工藤が小林千雪の小説『花のふる日は』を映画化することになり、志村と万里子が出演が決まった。
 以来万里子は主に映画を中心に活躍してきた。
 今年も話題作に出演していたはずだ。
「さっきクランクアップだったんだ。これ、よかったらここに飾って」
 万里子は抱えていた大きな花束を鈴木さんに渡した。
「あらまあ、ステキだこと!」
「撮影、終わったんですか? お疲れ様です」
 良太も立ち上がって歓迎した。
「ここのプリン、美味しいのよ」
 万里子はパティシェリーの紙袋を良太に差し出した。
「うわ、ありがとうございます万里子さん! 今お茶いれます」
 鈴木さんは新しい花瓶をキッチンの棚から出して、万里子から受け取った花を鼻歌混じりで活けて大テーブルに飾った。
「珈琲入りましたよ」
 良太は珈琲を入れて早速プリンと一緒にテーブルに置いた。
「いい香り」
 窓際の大テーブルに座っていた万里子は、良太が出した珈琲を美味しそうに口にした。
「良太ちゃんて野球やってたんだよね?」
 向かいに座ってプリンを堪能していた良太は、万里子を見た。
「ええ、ガキの頃からずっと大学までやってましたけど」
 すると万里子はフフフと笑う。
「今度の映画でね、あたしセーラー服着たんだよ、高校生のシーンで。恥ずかしかったけど、少しだし、ほら、画面は加工されるから」
「絶対見たいです」
 良太は断言した。
「そう、あたしが野球部のマネージャで、彼が野球部のピッチャーなのよ」
「ほんとですか? 俺もピッチャーだったんですよ」
「だったわね。きっと可愛かったでしょ、良太ちゃん」
 さっき鈴木さんに言われたようなことをまた言われ、良太はまたハハハと空笑いする。
「あ、そういえば」
 急に万里子が何かを思い出したように、声をあげた。
「ちょっと昔のことを思い出したのよ。あの時もロケで撮影してたんだけど」
「何ですか?」
 良太はスプーンを持ったままキョトンとした顔で尋ねた。
「そう、もう十年くらい前になるわねぇ、工藤さんに誘われて千雪さん原作の『花のふる日は』に出たのね。確かあれは、横須賀だったか横浜だったか川崎だったか、とにかく神奈川のどこかだったはずなんだけど」
「へえ、確か、『花のふる日は』って、千雪さんの映画の第一弾でしたよね?」
 良太は映画の中の非常に美しかった桜のシーンを思い浮かべた。
 


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