「あー、やっぱり万里ちゃんだ」
オフィスのドアを開けるなり、中川アスカは声を上げた。
青山プロダクション所属の看板美人俳優である。
「アスカさん、お疲れ様です」
良太がパソコンから顔を上げた。
「アスカちゃん、久しぶり!」
万里子とアスカはハグすると、大テーブルのソファに仲良く座り、早速互いの近況を話しはじめた。
「お疲れ様です。今日からオフでしたっけ?」
続いて入ってきたアスカのマネージャ秋山は、タブレットをテーブルに置いて良太を見た。
「お疲れ様。今日はデスクワーク?」
「ええ、久しぶりに」
秋山は工藤が冤罪にされそうになった事件の折、大捕り物の時に呼んでくれなかったと、しばし良太に拗ねてみせたが、今はそんな事件などなかったことにして仕事も会社も元通りで、張り切って仕事をしている。
にしたって、大捕り物ってね。
でも、なんかみんな、いつも通りって感じで、よかった。
良太はオフィスを見回して微笑んだ。
夕方、鈴木さんが帰る前に工藤もオフィスに戻ってきた。
「お帰りなさーい」
万里子とアスカは結局工藤が帰るまでおしゃべりに夢中になっていた。
「お先に失礼します」
お疲れ様、とオフィスを出る鈴木さんに声をかけると工藤は万里子を振り返った。
「まだいたのか」
「何よ、その言い方。まあでも、忙しすぎてやつれてるんじゃないかと思ったけど、案外調子よさそうね、工藤さん」
万里子もつっかかるものの、さほど気にはしていない。
「お前こそ、せっかくのオフなんだろ? こんなところでアブラうってないで、休養しろ」
「言われなくても、明日から俊一と沖縄行くんだ」
フフっと笑う万里子に、アスカが、いいなあ、あたしも行きたい、と羨ましがる。
「今の仕事が終われば、少しはオフだから」
秋山が慰めるように言った。
「沖縄はムリですけどね」
一言付け加えるが。
「つまんないの。ねえ、万里ちゃん、これからご飯食べ行こ? お肉とかお寿司とか」
アスカの提案に万里子がすまなそうな顔をする。
「ごめーん、夜はちょっと予定あって」
「そっかあ、ま、でも楽しんできて、沖縄」
残念そうにアスカが言った。
「うん、ありがと! また今度、ご飯食べ行こ?」
「うん」
万里子は手をひらひらさせてバイバイと言いながらオフィスを出て行った。
「あああ、つまんなーい!」
アスカはソファに腰を降ろして、また喚いた。
芸能人はみんなが華やかな世界にいると世間では思っているかもしれないが、案外、一緒にご飯を食べに行くような友人を作るのもなかなか難しかったりするのだ。
特に強気なアスカだが、実は割と人の言葉の裏がわかってしまうようなところがあって、このオフィスの人間か千雪くらいしか、気を許せる相手が見つからないらしい。
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