そんな顔をしていたのだろうか。
「まあ、いろいろ、夕方の打ち合わせのこととか」
「新しいドラマ?」
「いえ、CMなんですけどね」
そう、港区芝にあるMEC電機の広報部で四時からCMの打ち合わせが入っていた。
昔から家電のMEC電機として親しまれてきたが、今の正式名称はMECコーポレーション、MECグループの総本山だ。
テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電からエアコンなどの空調から今は住宅設備まで幅広く取り扱っている。
今回の打ち合わせ案件は、来年春に売り出す冷蔵庫のCMに、青山プロダクション所属俳優南沢奈々を使いたいという話だった。
昨日広報部長の波多野から連絡が入ったあと、代理店プラグインの藤堂からも連絡があり、波多野を交えての打ち合わせとなっている。
ただ、少しいつもと違うのは、藤堂との約束の一時間前に、良太が広報部に出向くよう、波多野から言われていた。
波多野から良太に連絡が入った時点で、工藤のことだということはすぐわかった。
やはり波多野は動いていたのだ。
そしてそれは、今回の事件の裏に、組関係の争いが関係しているということなのだろうか。
考えるたびに良太を不安が襲う。
「いつでも話聞くよ? 良太がそういう顔してるとこっちまで心配になる」
ぼおっと考え込んでいた良太は、竹野の言葉にハッとする。
「ごめん、ありがとう」
竹野に心配されるほどひどい顔をしていたわけか。
しっかりしなきゃ、俺。
こんなんじゃ、工藤をこっちに戻すことなんかできないぞ!
「案外、よくなってきただろ」
撮影の合間、坂口が言った。
「演者らが一つの世界を創り出してる」
「ほんとですね」
良太が来てしばらくしてスタジオに一人でやってきたアスカは、ちょっと良太の方を見たが、割とすぐにその世界の住人になった。
秋山は今工藤が関わっているCM制作の現場に行っているはずだ。
「うーん、やっぱ良太ちゃんの目は確かだな」
「何ですか、それ」
坂口の言葉に良太は笑う。
「いや、皆の一体感が出てくる時ってその場のまとめ役みたいなのが大概いるもんなんだ。それって良太ちゃんだってこと」
「俺は演者じゃないですよ」
「でも演者みんなが良太ちゃんと話してるうちに何かワールドの入り口を見つけたみたいだよ」
「まとめるとか、俺なんか何もしてないですし」
「いや、マジ、まとめ役っつうか、良太ちゃんと話したから、動けた、みたいなところはあるんだと思うよ、うん」
自分にはそんな力はないが、坂口が言っているうちのいくばくかを担えてるんだとしたら、それは嬉しいことかもしれない。
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