「あ、藤堂ちゃん、今、オフィス? うん、ちょっと聞きたいことがあって」
佐々木の愛車であるボルボの運転席に座った直子が携帯で呼び出したのは、プラグインの藤堂だった。
「わかった、じゃ、三十分後に、そのカフェで」
藤堂は直子の電話に何かを察したらしく、神宮前の隠れ家的なカフェがあるからと、そこを指定した。
電話を切った直子は真顔になって、エンジンをかけた。
確かに路地から入った隠れ家的なカフェは、庭というより樹々に覆われた小さな一軒家で、古い木戸は空けるとギイと音がした。
店内は天然木を使った二人用のテーブル席が奥から三セットあるだけで、あとはカウンターに三人ほど座ればもう一杯になりそうだった。
カウンターではいかにも昔気質らしき老齢のマスターがいい香りのするコーヒーを入れていた。
「藤堂ちゃん、いた」
藤堂は一番奥の席で直子を待っていた。
「パーキング探すの手間取っちゃって。でも、よさそうなお店ね」
「まあね、カウンターのマスター一人でやってる、取材なんか一切お断りの店なんだよ」
「そんな感じ。お仕事は大丈夫?」
「そりゃま、直ちゃんの必死な声聞いたら仕事なんか」
すると直子は難しい顔をした。
「とりあえず、今日のお勧めブレンドとケーキセットでいいかな?」
「OK!」
チョコレートケーキを食べる時は表情を崩して美味しい美味しいと直子は絶賛した。
「ビターなチョコが絶妙なのに、お持ち帰りできないのか。今度佐々木ちゃん連れてこよ」
ケーキを平らげてコーヒーを飲みながら、直子は少しばかり幸せな気分に浸った。
「って、余裕なこと言ってる場合じゃなかった」
「どうしたの?」
また眉を顰めて難しい顔になった直子に藤堂は尋ねた。
直子はバッグからタブレットを取り出して、これ見て、と藤堂に向けた。
「ん? ホテルで殺人事件? 何か物騒だな。まだ犯人捕まってないのか。これが?」
直子は藤堂に近寄るように手招きすると、耳元で囁いた。
「え、ウソ?」
「ウソならいいけど、かなり確実。さっき青山プロお遣いに行った時、出てきた人相の悪い二人連れ、チンピラならあんなくたびれたスーツ着てないし、決め手は擦り切れそうな革靴、刑事以外ないわ」
「なるほど、悪党と刑事の見分け方はスーツと革靴か」
「感心してる場合じゃないってば」
「そうでした」
「ってか、聞いちゃったのよ」
直子は二人の刑事が誰もいないと思って話していた内容を声を落として話した。
「そうか………。確かに昨日の良太ちゃん、おかしかったからね。何かあったんだとは思ったが」
藤堂も直子につられるように真顔になる。
「被害者の知り合いの男に事情を聞いている、か。つまり決め手にかけるってことだな」
ネットのニュースから藤堂は事件の概要を把握した。
「当り前じゃない! 工藤さんがそんなことするはずないじゃない」
ちょっと直子の声が上ずった。
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