「いやもちろんもちろん。それにその二人の話からも、完全に工藤さんをクロにできない何かがあるんだろう。当然、否認しているだろうし」
藤堂は一人頷く。
「うーん、とっくに名探偵コナン氏も動いているだろうけどね。小田弁護士もついているから」
「そうなんだけど、やっぱりさっきの刑事の話、気になる。でもおそらく会社では緘口令がしかれてる。良太ちゃんにまともに聞いても教えてくれないと思うし………」
「直ちゃんとしては、何か役に立ちたいと思っているわけだ」
藤堂の表情は段々渋くなる。
「この店、行ってみようかな」
唐突にそんなことを言い出した直子に藤堂は慌てた。
「おいおい、カフェとかじゃないよ、クラブだよ?」
「わかってるわよ。ちょっと考えがあるんだ」
「ダメだよ、危険なことは」
藤堂は直子を窘めるが、直子の中ではとっくに何かを実行しようとしているらしいことは付き合いも長くなってきた藤堂にはよくわかった。
「大丈夫よ、またこの店で殺人事件とか、ないって」
「冗談じゃありません。こういうところに潜り込めそうな女なら約一名知ってるから、待ちなさい」
ポケットから携帯を出すと、藤堂は番号をタップした。
「俺だ。今、どこにいる? ……何? で、いつこっちに。……わかったよ、クソ」
イラつきながら電話を切った藤堂を見て、「ひょっとして海外でしょ? さやかさんね」と直子は言った。
「パリだと。来週まで。あいつならはまり役だと思ったんだが」
携帯をもてあそびながら藤堂は言い放った。
「そんなことだと思った。ことは急を要するし、今晩でもあたし行ってみる」
「ちょと待った! 直ちゃん、これは現実で、ドラマじゃないんだよ?」
立ち上がった直子を藤堂は焦って引き留めた。
「直ちゃんだけ危険な目に合わせるわけにいかない。俺も同行しよう」
「だって仕事あるでしょ」
「いやあ、まあ、うちには有能な社員がいるからね」
今頃、三浦がくしゃみをしているかもしれないと思いながら藤堂は言った。
「で、作戦は?」
「別に、バイトしたいって言えば入れてくれるでしょ。クライアントのところに行く時用にオフィスにスーツも常備してるんだ」
あっけらかんという直子は、確かに度胸はいいのだが。
「なるほど」
「でも絶対佐々木ちゃんには内緒だからね!」
直子は断言した。
「いや、しかし、やっぱり心配だ」
「大丈夫だって。たかがクラブでしょ?」
藤堂は渋い表情を崩せなかったが、直子をこのまま放ってはおけなかった。
店を出るとすぐ、直子は携帯でクラブ『ベア』に電話を入れた。
「はい。わかりました、六時半ですね。よろしくお願いします」
携帯を切ると直子は「OKだって」とにっこり笑う。
「ああ、しかし、大丈夫かなあ。何かあったら佐々木さんに顔向けできないぞ」
藤堂は大仰にため息をつく。
「何言ってるのよ、藤堂ちゃんらしくない。堂々とお店にお客さんとして入ればいいじゃない」
直子は軽く言う。
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