月で逢おうよ13

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「え………」
 勝浩は絶句した。
 女の子二人を従えるようにして入ってきた長身の男は、白いシャツを無造作にはおり、緩やかに流れる柔らかい髪が少し首にかかっている。
「おっせーぞ! 幸也」
「このやろー、どこに雲隠れしてやがったんだ、今まで」
 スーツの男たちからもヤジが飛ぶ。
「真打登場ってやつ?」
 にやっと笑って、幸也は周りを見回した。
「えー、長谷川幸也です。どうも、お待たせしました」
 案の定女の子たちの目は、サラリーマンから一斉にこの華やかな男へと向けられた。
 何で………?
 勝浩の頭の中は混乱していた。
「昨日はニューヨーク、今日はここ新宿と何せ引っ張りだこで、身体がいくつあっても足りなくて……」
「言ってろ!」
「調子に乗ってろ!」
 しゃあしゃあと言ってのける幸也に男たちからヤジが飛ぶ。
「お前はもういいから、後ろの女の子たち、紹介しろよ」
 検見崎が促すと、幸也の両手の花たちが、にっこり口を開く。
「船越ひかりです。NYでモデルやってて、今回、母の実家に里帰り中です」
 どう見たってハーフかなんかだろう、ひかりは超ミニのワンピース、みごとに脚は長い。
「リリーです。ヨロシク」
 こちらは完璧金髪碧眼、日本人ではあり得ない美女だ。
 おおおおっ、とまた男たちから歓声があがる。
「じゃ、リリーちゃんはこっち、ひかり、そこね。幸也はそっち」
 検見崎が仕切って、幸也を端の席に誘導する。
 男たちも幸也とはかなり周知の仲のようで、幸也が席に着くなり、肩を叩き合って、笑っている。
「全員揃ったところで、まずは乾杯ってことで」
 呆然と固まってしまった勝浩のことなどおかまいなしに、場はさらに盛り上がりを見せた。
 少年らしさはすっかり抜け、より一層精悍になった感のある幸也は、ぐんと背が伸びたらしい。
 相変わらず人の悪そうな笑みを浮かべ、ちょっと危なそうな雰囲気にも磨きがかかったようだ。
 帝大に進学した幸也が、二年の夏アメリカに留学し、航空宇宙工学をやっているらしいと、勝浩も風の便りに聞いている。
 おそらくアメリカでも散々女を泣かせてきたに違いない。
 幸也をただただ見つめながら、勝浩はそんな分析をしてみる。
 や、違うだろ……、だから何でここに長谷川さんが現れるんだよ?
 こんな偶然、詐欺だろ。
 心の準備もできてないってのに、何でこんなとこにいきなり現れるんだよ!
 しかも検見崎さんも長谷川さんのこと何で知ってるわけ?
 頭の中が疑問だらけになりながら、勝浩は努めて冷静になろうと手に持ったジョッキに口をつける。
 どうしよう。
 アルコールも手伝って、心臓がガンガンいっている。
 いきなりこんな形で現れたら、どんなリアクションをしていいかわからないではないか。
 それにしても気づいてないんだろうか。
 いや、それとも俺のことなんて忘れてしまったのかもしれないな。
 やけになってジョッキを空にしてしまうと、いつの間にか向かいに座っていた検見崎が、おおっと、笑う。
「今日はいい飲みっぷりじゃない。あ、おにーさん、こっち、勝っちゃん、お湯割の梅干し入りだよな? それと肉じゃがひとつ」
 傍を通りかかった店員を捕まえて、検見崎はすかさず勝浩のいつも選ぶものをオーダーしてくれる。
 そういうところは何せ面倒見がいい。

 


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