月で逢おうよ14

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 シーリングファンが高い天井で回っている。
 大型のテーブルは黒く磨かれ、背もたれが大きい椅子は凝ったデザインだ。
 パッと見はそんな洋風居酒屋だが、メニューは和洋何でもありで、気取りはない。
「何、勝っちゃんも負けちゃいられねーってか?」
「そんなんじゃありません」
 きっぱり検見崎に反論して、勝浩は目の前の豆腐のあんかけをつつく。
 幸也の周りだけでなく、みんな大いに盛り上がっている。
 勝浩といえば、さっきから女の子にいろいろ聞かれるのだが、はいとかいいえとか、別に、くらいしかしゃべらないので、そろそろ勝浩には誰も話し掛けようとしなくなってきた。
 いっそ帰ってしまおうかとも思うが、あんなに会いたかったはずの幸也がそこにいるのだから、何となくそれもできない。
 いつにないハイペースで飲んだので、かなり酔ってしまったのはわかっていた。
 だが、どうやら自分のことをすっかり忘れているらしい幸也には、やっぱり何か一言くらい言わないと気がすまない。
「きゃー、勝浩ってば、お子様がお酒なんか飲んで、不良ぉ」
 あれこれと思いを巡らしている勝浩の頭の上から、そんなふざけたセリフが振ってきた。
「とっくに二十歳超えてるから、いいんです。高校のときから飲んでた人に言われたくないです」
 断るでもなく、ちゃっかり勝浩の隣に座った男に、勢いでそんな言葉を返す。
 まるであの日の続きのように。
 幸也を見た途端、あんなにドキドキしたはずなのに、顔を合わせたらどう言ってやろうと頭の中で考えていたセリフはどこかへ行ってしまい、もうこの男のペースにはまってしまう。
「梅干し入り? 渋いね~、タケのやつだな、こんなもん教えたの」
 いきなり勝浩の持っていたグラスを取り上げて、幸也はごくりと一口飲んだ。
「人の飲まないでくださいよ」
「なるほど、なんか日本の味って感じ。飲む?」
 慌てて幸也の手から取り返すと、今度は幸也のグラスを差し出されて、勝浩は思わず身を引いた。
「結構です」
「相変わらず、可愛くない反応。そんな汚いもんでも見るみたいに。バイキンも消毒されてっから、このウォッカで。お、これもいけるじゃん」
「どうして俺が可愛くなくちゃいけないんですか。第一そんな強い酒は免疫がないんです」
 勝浩の仏頂面も意に介さず、幸也は勝手に勝浩の前にある豆腐のきのこあんかけの器に箸をのばした。
「日本の味だ~」
「豆腐なんか、いまどきアメリカにだってあるでしょ」
 出てくる言葉はついつい突っかかり気味になる。
「それが微妙に、違うんだよなー。うまいよ、くわないの?」
「もうほとんど残ってないじゃないですか」
「あ、悪い、最後のひとかけ、ほら、あーん」
 何気に箸に豆腐をはさんで目の前に差し出され、勝浩はうっと息が止まりそうになる。
「うわ、たれるって! 早く」
 どうにも仕方なくて、勝浩はそれをパクっとくわえる。
「はい、おりこうさんねー」
 勝浩の頭を撫でる手を振り払い、勝浩は口の中のものを飲み込みながら幸也を睨みつけた。
「だから、子どもじゃないんですから」

 


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