迷惑を被ったのは勝浩だけではなかったし、乱暴したりするわけではなかったけれど。
勝浩は三年生の終わりに転校してしまったので、きっと幸也はそんなこともすっかり忘れているに違いない。
中学二年の時、父親が東京本社に栄転になると聞いて勝浩も喜んだが、当時人に貸していた懐かしい家に戻れる、ということは、陵雲学園や志央と近くなるということで、それはそれで思い出したくない過去に遭遇することをも意味する。
勝浩は陵雲学園中学への転校を勧める父に断固として、別の中学への転校手続きをせがんだ。
その時はまさか、また陵雲学園高校に通うことになろうとは思わなかったのだ。
東京に戻ってきて、勝浩は家から遠い公立中学に転入したが、なんとなく馴染むことができず、一人孤立していた。
「こら! このガキども! 小さい動物をいじめんじゃねー」
二月の寒い日の夕方、塾に行く時に通りかかった公園で、怒鳴り声が聞こえた。
ベンチの周りでわいわい騒いでいた小学生四、五人がその声に立ち止まる。
小学生の足の間から、野良猫が走り去るのが見えた。
「ったく、近頃の親や先生は何教えてんだか。お前らな、ゲームばっかしてっから、そーゆー基本的なことわからなくなっちまうんだぞ」
諭すような口調で、小学生に説教しているのは、背は高いがまだ若い少年だった。
「基本的なことって、何だよ」
生意気そうな小学生がくってかかる。
「ん、たとえば、こうゆう公園で何をして遊ぶか、とか」
「なーんで、それが基本的なことなんだよ」
「子供は遊ぶ、ってのが基本だからだ」
わかるようなわからないような理論で、小学生の質問を煙に巻くと、少年は持っていたサッカーボールを取り出して、「やるか?」と聞く。
「だーって、こんな狭くて、こんなブタだとかクマだとかが埋まってるとこで、できねーじゃん」
確かにその公園はブタやクマが形作られ、地面に埋まっているし、その他にも滑り台やブランコなどがあって、とてもサッカーなんかできる場所はない。
すると少年は、「頭使えよ、頭。いいか、見てろよ」と言ったかと思うと、コートを脱いで鞄と一緒にベンチに放る。
ボールを足元に落とし、ブタやクマの間をドリブルして走る。
ブランコを潜り抜け、滑り台の下もドリブルしながら潜り抜ける。
小学生の間から、「すげぇ」と歓声があがる。
「やってみるか?」
少年が尋ねると、小学生が「やるやる」「俺も」と少年の元に走り寄る。
そのようすをしばらく見つめていたが、勝浩は思わずベンチに近づいた。
鞄と一緒に無造作に置いてある黒いコート。
ようやく、少年が誰であるか、思い当たった。
長谷川幸也だ。
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