何やら狐につままれたような面持ちで、勝浩は大学の片隅にある古いクラブハウスで待っているだろう犬や猫たちのもとへと向かう。
でも、机の上にあった見慣れぬ銀のライターといい、やはり夢ではないらしい。
誰のだろう? 検見崎さんって、いつも百円ライターの人だしな。
それらの質問に答えてくれるだろう検見崎は、あのあと取材で北海道に行くと言っていたから、しばらく会えないだろう。
わざわざ電話で聞くようなことでもない気もするし。
しかも、だ。
どうやら電話を受けた垪和の話によると、検見崎は今度の訪問会にも欠席だという。
これじゃ、いつまで経ってもわからないままだ。
ライターのことも、幸也のことも。
『動物愛護研究会』の主な活動のひとつは、月一で犬や猫と一緒に老人ホームや養護施設を回ることだが、夏休みに限り、二ヵ月のうち三回を予定していた。
そして九月末には検見崎家所有の山小屋で毎年恒例のバーベキュー大会がある。
慰労の意味で、犬や猫たちももちろん同伴だ。
これだけはみんなが楽しみにしているようで、参加者がいつもよりぐんと増える。
今回はたった一人の四年生、垪和の追い出しも兼ねている。
なかなか厳しい就職戦線、内定をもらっているところは必ずしも意に添う企業ではないらしい。
だが、訪問会を明日に控え、勝浩が打ち合わせにクラブハウスに行ってみると、垪和がため息をついていた。
「え、四人ですか?」
「そうなのよ。旅行とか、帰省とかでみんな行けないって。とにかく検見崎が行けないってのが一番困ったわ。勝浩くんじゃ頼りにならないってわけじゃないけど、ロクとかビッグのリクエストがあったのに、万が一、喧嘩でも始めたらまずいでしょ」
犬や猫一頭につき、最低一人はつく、という規定を作っていて、施設を回るときは、万が一の事故に備えて全体をまとめる代表が一人は同行することになっている。
今度訪問する予定の老人ホームは、二度目の訪問で、あらかじめ希望者を募り、既に犬三匹、猫二匹を選んでもらっている。
参加希望者は十五人。
犬や猫にもストレスを与えたくないので、最低でも六人は欲しいのだ。
「今回、ユウも入ってるんで、俺、ビッグ引き受けましょうか」
「うん、とりあえず、そうしてもらえるかな? 大杉は犬の扱い苦手だし、彼と美利ちゃんが猫、私がロクを引き受けるから」
それでも心配そうな顔で、垪和はスケジュール帳を広げた。
訪問会当日、少し散歩に時間がかかり過ぎて時間ギリギリになり、勝浩は慌ててユウを連れて大学へと向かった。
「よう、きたな」
クラブハウスに行くと、白いポロシャツの男が振り返ってニヤッと笑う。
「長谷川さん! どうしてこんなとこにいるんですか?」
勝浩は驚いた。
「いや、タケのやつが代わりにお前行けってんでさ。たった今から、入会させてもらいます。みなさん、よろしく! 長谷川幸也です」
悪びれもせず、凛々しそうに挨拶する幸也に、準備をしていた垪和やみんなが笑顔を向ける。
「検見崎の話によると、大型犬たくさん飼ってるんですって?」
心なしか垪和の声が弾んでいる。
堅実派の垪和でさえ、幸也が相手だと違うものなのか。
「五匹います。猫もいますよ」
「そうなんだ? 検見崎の友達っていうから、どんな人が来るかと思ったけど、よかったわ。勝浩くんの高校の先輩ですって?」
「ええ。生徒会でも一緒だったんですよ、勝浩とは二年間」
勝浩の代わりに幸也が答える。
幸也だと、何がよかったのだろう。
確かにガタイはいいから、力はありそうだけど。
勝浩は何だかわからないが妙に腹立たしい気分で、二人のやり取りを見やる。
女ってこういう男に弱いんだよな。
どこか曲者そうな雰囲気に、わざわざ引っかかるっていうか。
それにしてもどうしたっていうのだろう。
こないだ再会したと思ったら、いきなり幸也に自分のテリトリーにまた近づいてこられて嬉しい思いの反面、また何か幸也が企んでいるのではと勘繰りたくもなり、勝浩は何やら不穏な面持ちでユウをクラブハウスの前の柱につなぐと、中に入って準備を始めた。
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