月で逢おうよ23

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「すみません、垪和さん、ちょっと俺、見てきていいですか?」
 内心焦りながらも、気を落ち着けて勝浩は言った。
「いいわよ、こっちは気にしなくて」
 大杉のクロはしばらくしてよその家の塀の上にいるのが発見され、勝浩と大杉とで捕まえるのに成功した。
 だが、もしやホームに戻っていないかとかすかな期待も空しく、ユウの姿はない。
「俺も行こう」
 肩を落としてまた探しに行こうとする勝浩に、ビッグを連れた幸也が声をかけた。
「二手に分かれよう。俺、こっち行くから」
「お願いします!」
 一時間ほど探したろうか、依然ユウの影も形も見あたらない。携帯が鳴り、幸也が見つかったか、と聞いてくるのだが、見つかりません、と勝浩は力なくうなだれる。
 二人は一旦老人ホームに戻ると、ビッグも他の犬や猫と一緒にワゴンに乗せた。
「すみません、もう少し、探してみますので、ビッグ、お願いします」
 そう言って、ワゴンを見送ったのだが、勝浩はすっかり落ち込んでいた。
「勝浩、そうがっかりすんな。らしくないぞ、いつもの負けん気はどうしたよ」
 ぽん、と幸也は勝浩の肩を叩く。
「だって、俺が悪い…」
 俺が、他のこと考えてたから……
 勝浩は唇を噛む。
「とにかく車であたりをまわってみようぜ。ほら、乗れよ」
 促されて勝浩は、幸也の車に乗り込んだ。
「なんだっけ、犬ってさ、帰巣本能とかあるだろ。家に向かってんじゃないか?」
 窓から辺りに目を凝らしながら必死でユウを探す勝浩を励ますように、幸也は快活に言って車をゆっくり走らせる。
「ええ、そうですね…」
「と、じゃあ、ホームから見てお前んちの方角に、走ってみるからさ」
「すみません」
 三十分ほど車でホームの周囲をあちこち流してみたが、やはりユウの気配はない。
 車がホーム近くの公園に差し掛かった頃には、あたりは夕暮れの色が濃くなり始めていた。
 その時、勝浩は木蔭に茶色い影が動くのを見た気がした。
「停めてください!」
「いたか?」
 幸也が車を路肩に寄せて停めるなり、勝浩はドアを開けて公園に走りこむ。
 後ろから幸也も追ってくる。
 それほど大きな公園ではないが、鬱蒼とした木立の間を遊歩道が続いている。
「ユウ!」
 周りに目を配りながら、勝浩は必死にユウの名前を呼ぶ。
 遊歩道の向こうの方で、わん、わんっと犬の鳴く声がした。
 勝浩は走った。
 だが勝浩が見つけたのは、やがて遊歩道が終わるあたりで、ユウと同じ柴犬を連れた男の姿が道路に出て行こうとしているところだった。
 噴き出す汗を手の甲でぬぐいながら、勝浩はがっくりと息をつく。
「勝浩、いたか?」
 幸也の声に顔を上げた勝浩は、首を横に振る。
「ちょっとそこに座ってろ」
 すっかり意気消沈した勝浩をそばのブランコに座らせると、幸也は遊歩道を抜けて公園を出て行った。
 やがて戻ってきた幸也の手にはポカリスエットが二つ。
 その一つを勝浩に差し出した。


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