「なんか勝浩、とってもいい抱きゴコチぃ」
「長谷川さ……!」
ちょっといい人だと思ったらすぐこれだ。
そんなことしないでほしい。
俺が、どんなに好きだったかなんて、知らないくせに!
今だって、また…………。
その時、勝浩の耳に聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「……ユ…ウ……?!」
勝浩は叫ぶと、幸也の腕を振り解いて駆け出した。
聞こえる。
あれは絶対ユウだ!
きゅうん、きゅうん、と、鳴き声らしきものに耳を澄ましながら、四方を見回す。
どこだ?
じっと木々の間に目を走らすと、大きな銀杏の木の根元に動くものが見える。
「ユウ!」
いた!
勝浩を見つけたユウが、ワン、と一声吠え、嬉しげに尻尾をクリクリ振っている。
駆け寄ってみると、ユウのリードが植え込みの柵に引っかかって動けないでいたのだ。
「まったく、お前は! 人騒がせなやつだ!」
「いたか!」
駆けつけた幸也もしゃがみ込み、しきりと勝浩の顔をなめまくっているユウの頭を撫でまわす。
「よかったな、こら、勝浩に心配かけんじゃねーぞ、ユウ」
「ほんとによかった。どうもありがとうございました!」
勝浩は幸也にぺこりと頭を下げる。
「いやいや。お礼は勝浩のその可愛い笑顔で十分」
「そうやって人をおちょくらなければ、いい人なのに」
唇をムッと尖らせて、勝浩は軽く幸也を睨みつける。
「そういえば、俺の知らないうちに、何で長谷川さんの携帯が登録されてるんです?」
今になって、幸也の携帯を受けたとき、しっかり幸也という文字が出たことを思い出した。
勝浩には幸也の携帯を登録した覚えなどまったくないのに。
「覚えてないのか? 飲み会の時、連絡先交換しただろ」
「え………」
そう言われても記憶がないから、むやみに否定もできない。
「ほんじゃ、車にもどろう。送るからさ」
「え、あの、でもそこまでしていただいたら…」
「遠慮なんかするなって言ったはずだぜ?」
「…じゃあ、お願いします」
「よーし、ユウ、行くぞ」
勝浩とユウを従えて、先頭に立って歩く幸也の背中を見て、勝浩は苦笑する。
いつか、子どもたちを従えて一緒にボール追いかけていた、あの時の記憶がオーバーラップする。
変わってないんだな。
きっと、この人の本質は。
勝浩は笑う。
「どうした?」
「いえ、そういえば、ライター失くしませんでした? これ」
勝浩はポケットから銀のライターを取り出して差し出した。
「おう、俺んだ、サンキュ。でもどこにあった?」
やはり、幸也のものだった。
「こないだ、酔っ払った俺、部屋に運んでくれたのって、長谷川さん?」
「あ………、いや、その、別に俺は何もしてないぜ! 誓って! あ、ほら、タケも一緒だったし」
訳もなく焦りまくる幸也に、片方の眉をつりあげて勝浩は訝しげに見上げる。
「何、焦ってるんですか?」
「いや、別に」
勝浩は首を傾げる。
でも何だか、ちょっと高校時代に戻ったみたいだ。
またこうして少しでも長谷川さんと一緒にいられるなんて。
彼がアメリカに留学した理由も、突然帰ってきた理由も、恋人のことも何もわからないけれど、一緒の時間をまた共有できていることが嬉しい。
もしかするとまた、この人のことだ、打ちのめされることがあるとしても。
そんなことはもう、織り込み済みだけど。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
