月で逢おうよ25

back  next  top  Novels


「なんか勝浩、とってもいい抱きゴコチぃ」
「長谷川さ……!」
 ちょっといい人だと思ったらすぐこれだ。
 そんなことしないでほしい。
 俺が、どんなに好きだったかなんて、知らないくせに!
 今だって、また…………。
 その時、勝浩の耳に聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「……ユ…ウ……?!」
 勝浩は叫ぶと、幸也の腕を振り解いて駆け出した。
 聞こえる。
 あれは絶対ユウだ!
 きゅうん、きゅうん、と、鳴き声らしきものに耳を澄ましながら、四方を見回す。
 どこだ?
 じっと木々の間に目を走らすと、大きな銀杏の木の根元に動くものが見える。
「ユウ!」
 いた!
 勝浩を見つけたユウが、ワン、と一声吠え、嬉しげに尻尾をクリクリ振っている。
 駆け寄ってみると、ユウのリードが植え込みの柵に引っかかって動けないでいたのだ。
「まったく、お前は! 人騒がせなやつだ!」
「いたか!」
 駆けつけた幸也もしゃがみ込み、しきりと勝浩の顔をなめまくっているユウの頭を撫でまわす。
「よかったな、こら、勝浩に心配かけんじゃねーぞ、ユウ」
「ほんとによかった。どうもありがとうございました!」
 勝浩は幸也にぺこりと頭を下げる。
「いやいや。お礼は勝浩のその可愛い笑顔で十分」
「そうやって人をおちょくらなければ、いい人なのに」
 唇をムッと尖らせて、勝浩は軽く幸也を睨みつける。
「そういえば、俺の知らないうちに、何で長谷川さんの携帯が登録されてるんです?」
 今になって、幸也の携帯を受けたとき、しっかり幸也という文字が出たことを思い出した。
 勝浩には幸也の携帯を登録した覚えなどまったくないのに。
「覚えてないのか? 飲み会の時、連絡先交換しただろ」
「え………」
 そう言われても記憶がないから、むやみに否定もできない。
「ほんじゃ、車にもどろう。送るからさ」
「え、あの、でもそこまでしていただいたら…」
「遠慮なんかするなって言ったはずだぜ?」
「…じゃあ、お願いします」
「よーし、ユウ、行くぞ」
 勝浩とユウを従えて、先頭に立って歩く幸也の背中を見て、勝浩は苦笑する。
 いつか、子どもたちを従えて一緒にボール追いかけていた、あの時の記憶がオーバーラップする。
 変わってないんだな。
 きっと、この人の本質は。
 勝浩は笑う。
「どうした?」
「いえ、そういえば、ライター失くしませんでした? これ」
 勝浩はポケットから銀のライターを取り出して差し出した。
「おう、俺んだ、サンキュ。でもどこにあった?」
 やはり、幸也のものだった。
「こないだ、酔っ払った俺、部屋に運んでくれたのって、長谷川さん?」
「あ………、いや、その、別に俺は何もしてないぜ! 誓って! あ、ほら、タケも一緒だったし」
 訳もなく焦りまくる幸也に、片方の眉をつりあげて勝浩は訝しげに見上げる。
「何、焦ってるんですか?」
「いや、別に」
 勝浩は首を傾げる。
 でも何だか、ちょっと高校時代に戻ったみたいだ。
 またこうして少しでも長谷川さんと一緒にいられるなんて。
 彼がアメリカに留学した理由も、突然帰ってきた理由も、恋人のことも何もわからないけれど、一緒の時間をまた共有できていることが嬉しい。
 もしかするとまた、この人のことだ、打ちのめされることがあるとしても。
 そんなことはもう、織り込み済みだけど。
 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます