月で逢おうよ29

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 幸也が部屋に戻ってきたのは、十二時になろうという時間だった。
「……ん……長谷川さん…」
 ややあって、傍らに誰がが立っている気配に、寝ぼけ眼で勝浩は幸也を見上げた。
「悪い、起こしちまったか。いいから寝てろ。ちょっと煙草吸ってくるから」
 くしゃっと勝浩の髪を撫でると、幸也はまた部屋を出て行った。
 そのまま幸也が帰ってこなかったのは、翌朝、勝浩が起きて、隣のベッドが使われていないことでわかった。
 勝浩はふうっと大きくため息をつく。
「仕方ないじゃん」
 だいたい、忘れてるはずだったんだから、長谷川さんのことなんか。
「何で今更、また、昔みたいにあの人のことでどぎまぎしなくちゃならないんだよ、俺」
 自分に言い聞かせるように言うと、ユウにリードをつけて散歩に連れ出した。
 どうせ今だけのことだし。
 この合宿が終われば、またあの人は住む世界が違う人になるだけだ。
 変に期待したりしたら、またがっかりするのが関の山だ。
 世の中、思い通りに行かないことの方が多いんだから。
 
   

 勝浩が食堂に入っていくと、何人かが起きだしていて、朝食を取っていた。
「おはようございます」
 朝食はパンと卵や野菜のセルフサービス、のはずだが、ちゃっかり女の子にオムレツなんかを作ってもらっている男どももいる。
「おはよー、勝浩くん、夕べ大丈夫だった?」
 勝浩に気づいて美利が心配そうな顔を向けた。
「ああ、うん、美利ちゃん、酒強いなー」
「へへ。あ、作ったげよか? オムレツ」
「ねー、美利ちゃん、チャー子知らない? ごはんまだなのよ」
 キッチンに取って返そうとした美利を、階段を降りてきた垪和が呼んだ。
「え、さっきリビングの梁の上にいましたけど」
「あ、いいよ、美利ちゃん、俺、自分でやるから」
 勝浩は美利を促した。
「うん、ごめん」
 美利は少し名残惜しそうに垪和と一緒に猫を探しに行った。
 キッチンでフライパンを使い、勝浩がスクランブルエッグを作っていると、「んまそー」と肩越しに幸也の声が降ってきた。
「食べるんだったら、作りますけど」
 まったくもう、心臓に悪いんだよ、長谷川さん。
「う、嬉しい! 勝浩くんお手ずから作ってくれるスクランブルエッグなんて」
 大仰に感激ムード全開の幸也を、勝浩は呆れて見上げた。
「おだてたって、うまいかどうかわかりませんよ。じゃあ、長谷川さん、パンの用意してください」
「へいへい。じゃあ、ついでにコーヒーも用意しましょーかね」
 幸也がいそいそとパンを皿に取り分けていると、あくびをしながら検見崎も現れた。
「あ、いいな、いいな、勝っちゃん、こんなやつの分はいいから、ボクたんに作って作って」
「何だと、タケ、あとからきて図々しいんだよ」
 朝っぱらからふざけ始める二人の分を勝浩は仕方なく作ることになってしまった。
 


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