月で逢おうよ5

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 ―― お前にやるよ。その代わり、風邪治せ ――
 
 おそらくほんのきまぐれだったのだろう、あの人からもらったマフラーは、あの日の、たった数十分の時間と一緒に引き出しの中にしまってある。
 学園を卒業するまで、勝浩にとってはずっと昔から苛めっ子でしかなかった幸也だ。
 だけどいつの間にか、長谷川幸也という存在は、それこそバレンタインデーに渡せるものならチョコでも何でも渡したいただ一人の相手になっていた。
 もし、幸也の心の中に想い人がいなければ。
 高校の卒業式、生徒会長として、在校生代表として送辞を読み上げながら、輝かしい未来に向かって歩いていってほしい、とそう願ったのは幸也のことだった。
 あの人のことしか考えていなかった。
 俺なんて本当は自分勝手な人間だ。
 それはよくわかっている。
 誰かが言った。
 ボランティアなんて偽善で、自己満足だけなんじゃないかと。
 実はそうかもしれないと勝浩は思う。
 自分の自己満足のためにやってるだけだって。
 しゃかりきになっているのは、心の空洞を埋めたいからだけなのかもしれない。
 あの日、学園を去るあの人の背中を見つめながら思ったこと。
 いつかもし、再び出会うことがあったら、その時は自分の気持ちを言えるかも知れない、なんて。
 その頃なら、きっとあの人も心の傷が癒えて、新しい誰かとともにいるかもしれない。
 自分も、別の誰かを好きでいるだろうからって。
 でもそんな自分は嘘っぱちだった。
 あれは去年、垪和に誘われて勝浩が『動物愛護研究会』に入って数日後のことだったか。
「長谷川さん?」
 キャンパスを横切った長身の後姿を思わず追いかけようとした自分に呆れた。
「んなわけないだろ。こんなところにいるわけないじゃん。バカか俺は」
 やがてその男の影は校門から消え、勝浩は空しく自嘲するばかりだった。
 本当は少しでも近くにいたくて、都内にあるこの慶洋大に進んだのだ。
 幸也がとっととアメリカに留学してしまったと聞かされたのはそれからすぐだった。
 いかに甘い期待だったかと、世の中そんなにうまくいくわけがないと思い知らされただけだ。
 結局、そんなものだ。そう思うのに、まだかなうはずのない期待を抱えている。
「堂堂巡りだな」
 勝浩は呟くと、愛犬ユウの待つ自分の部屋へと向かった。
 
 あの人のことも、いつかは遠い日の思い出になるのだろうか―――――――――――。
 


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