月で逢おうよ9

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 夕方になっても気温が三十度までしか下がらない中を散歩するのは、人間も犬たちもなかなか大変だ。
 一人でハスキーとラブラドールを散歩させるのは尚のこと。さらに三匹を連れてとなると、かなりな肉体労働になる。
 二人は犬たちを三十分ほど運動させ、ぐるりと学内をまわってクーラーのきいたクラブハウスに戻る。Tシャツも脱ぎたくなるほど汗だくだ。
 ロクとビッグに水を与えて、今度は三匹の小型犬を連れてまた外へ。
 戻ってくると、犬たちのごはんだ。
「でもさ、こうやって、元気に食べてるところ見るのが、一番好きだな、俺」
 美利が何も言わなくなったので、振り返ると、美利は勝浩から目をそらす。
「どうした?」
「あのね、勝浩くん」
「何?」
「彼女、いないってほんと?」
 思い切ったように顔を上げた美利は、勝浩をじっと見つめた。
「え………、うん……」
 彼女が何を言いたいのか、何となくわかってしまう。
 勝浩は曖昧な返事を返すしかなかった。
 次の言葉を待って、途端に空気が緊張する。
「私じゃ、ダメかな? つきあえない?」
 ほんの一分ほどの沈黙が重く、長い。
「ごめん、俺、好きな人、いて。片思い…なんだけど」
 ようやく搾り出すように口にした言葉。
「そ………っか。わかった」
 また、少しの沈黙のあと、泣き出しそうな声で美利が言った。
「その人に………、告白したの?」
「いや。別に相手いたし」
「そう…………。つらいね」
「…いや……」
「あ、気にしないで。も、忘れていいから。それに大丈夫、やめたりしないし」
 急に元気な声で美利はそう言うと、「じゃ、またね」と無理に笑顔を見せてクラブハウスを出て行った。
 ふう、とため息をつく。
 美利を見送りながら、ひょっとして彼女とつきあってみたら、あの人のことも忘れられるのではないか、そんな思いが勝浩の脳裏をよぎる。
「バカか。そんな、彼女に失礼だよな」
 ボソリと呟く。
「つきあってみればいいのに」
 突然、背後から声がして、勝浩は「うわっ!」と叫んで振り返った。
「け、…ん見崎さん! いつからそこにいたんです! 人の話盗み聞きするなんて」
 いつもより髭が伸び、頭をくしゃくしゃにして、のっそりと立っている検見崎は、ふわあとあくびをした。
「人聞きの悪い。俺が寝てたら二人がやってきたんじゃないか。そこで告白大会始めるから、出るに出られなくってさ」
 夕べから朝まで友達につきあわされて飲んでいたという検見崎は、冷蔵庫からウーロン茶を取り出すと、自分用に置いてあるマグカップに注いで一息に飲み干す。
 どうやらソファの後ろ、寒い時はビッグが寝ているクッションを枕に床の上に直に寝ていたので、勝浩も美利も気づかなかったのだ。


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