ひとことでいいから3

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「すみませんていやあ、何でも許されると思ってるのか! そのカボチャ頭に叩き込んでおけと言ったはずだ! そのガキは二度や三度チャイムなんか鳴らしても、出てきやしないから、とっとと部屋に入って蹴るなりなんなりしてでも連れ出せってな」
「ハイッ、申し訳ありません……」
 工藤の怒号に平身低頭で、真中はひたすら頭を下げる。
 あーあ。
「朝っぱらから、やられてるよ、真中さん」
 良太はチラッと真中を見て気の毒そうに呟く。
 同時に会社に入ったばかりの自分がオーバーラップする。
 あんまし、成長してないけど、俺も。
「こいつ、そんな叱らなくてもいいじゃん、俺が寝坊したんだし」
 真中の後ろで、小笠原が平然と口にする。
 このやろ!
 と思ったのは当然良太だけではない。
「きさまにそんな口を叩く資格があると思うのか?」
 唸るような工藤の台詞に、小笠原はちょっと肩を竦める。
「午後イチでスポンサーに挨拶に行く。その前に良太からきっちりレクチャー受けておけ」
 上着を掴み、良太、と声をかける。
「NTV、行ってくる。午後から志村たちがくる。俺が二時までに戻らなかったら、向こうで落ち合うって伝えてくれ」
 そう言い置いて、工藤はそそくさと出かけた。
「うっへー、朝っぱらから雷攻め」
 おちゃらける小笠原に良太は呆れかえる。
「じゃあ、弁当でもとって、メシ食べながらやろうか」
 良太はすっかり意気消沈している真中に、できるだけ明るく声をかける。
「真中、元気だせよ。俺が入社当時なんか、あんなもんじゃなかったぜ。イチイチ工藤さんの言うことに落ち込んでたら、仕事なんかできないよ」
「はあ……」
「そうだぜ? お前、あんなオヤジの言うことなんか、イチイチ気にすんなって」
 そばでおちゃらけ男が言う。
「お前はもっと気にしろ! お前が何かやらかすたび、真中が怒鳴られるんだぞ。いい加減自分の立場自覚しろ!」
 工藤でなくても堪忍袋の緒が切れるというものだ。
「こえー、良太まで」
 小笠原が大仰に肩を竦めてみせる。
「今度何かやらかしたら、こんなやつ、ガンガン怒鳴っていいからな、真中」
「はあ…でも良太さんは、T大出でしょ、俺なんか、三流私大出だし」
 真中は相当参っているようだった。
 だがしかし、良太としても、こんなところでまた真中に去られたら自分が大変なのである。
「んなもん、なーんも関係ないって。第一、俺、大学で野球しかやってなかったし。工藤さんには頭にヌカミソ詰まってるだの、何だの、もうさんざん言われまくったよ。おまけに、ヘマやって迷惑かけっぱなしだし」
「見ろ、良太だって、そんななんだぞ」
 励ましているつもりなのか、またしてもな小笠原の発言に、良太も思わずため息をつく。
「あのな、小笠原、時間に遅れるとか、寝坊して真中を無視するとか、そういう、最低限のルールを守れないってのが本当の最低だってわかってるか?」
 良太は諭すように話す。
「第一時間にしたって、余裕をもって、何時何分厳守とか言ってるわけじゃないだろ?」
「へいへい、以後、気をつけまーす」
 小笠原は相変わらず、のらりくらりと答える。
 注文した弁当が届く前にニューヨークからメールが届いた。
「よかった、OKしてくれたみたいだ」
「何だよ?」
「今度のドラマでニューヨークのブランドに撮影の協力依頼してるだろ」
「へえ」
 小笠原は相変わらず他人事のようだ。

 


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