「へえ、じゃない。お前、英語大丈夫なんだろうな? 今日スポンサーに挨拶行った時、英語ダメです、じゃ、しゃれになんないからな。ニューヨークと東京で金かけてやるんだから、失敗は許されないんだぞ」
良太は嚙んで含めるようにきっちりと言った。
「英語かあ。まいねーむいず、ゆうじ、おがさわら、くらい?」
「ふざけんな!」
思わず声をあげて良太がきっと睨みつけると、「やーん、良太ってば、こわーい」と小笠原はさらにふざけ倒す。
こんなやつにまともに相手をしていたら、時間がなくなるとばかりに、良太は、先ほどから作っていたドラマに関する資料を二人に渡し、レクチャーを始める。
「脚本は友永美津子さん、パイロットとニューヨークのブランドメーカーで働く女性のラブロマンスなんだけど、嘘っぽくならないように、今回本物のブランドに協力してもらうわけだ。もちろん、英語がふんだんに使われる。それは覚悟してもらわないと」
「だからさ、俺、英語なんかできねって」
椅子にふんぞり返って小笠原がぶつくさ言う。
「やってないだけだろ? 英語なんかやる気になればある程度なら三日でできる。台詞覚えられるんだから同じことだろ」
良太の発言に、一瞬二人とも絶句する。
「良太さー、言ってること、工藤より怖え」
ふうと良太はため息をつく。
「そのくらいの覚悟でやればできるってことさ、お前なら」
すると珍しく真剣な顔で小笠原は「わかったよ」と言う。
「さぁさ、みなさん、お弁当届きましたよ」
鈴木さんの声で、空気が和らいだ。
食事中は、良太もちょっと奮発した弁当に舌鼓をうつのに没頭する。
「そういや、俺、真帆から、再三、工藤に会わせろって煩く言われててさ。結構真剣になっちまったみたいで、あいつ、珍しく」
小笠原のいきなりの発言までは。
良太は喉につかえそうになって、慌ててお茶を飲む。
「なあ、工藤、決まった相手っているのか? いろいろと噂あるけど、全く見えてこないしさ。まあ、出先とかでうまくやってんだろうけど」
良太は面と向って聞かれて、言葉が出てこない。
黒川真帆は人目もはばからず工藤に言い寄ってきた肉食系俳優だ。
「さあ……忙しい人だからな」
やっとそれだけ言って、良太はまた弁当に取り掛かる。
「だけどな、あれだけの男がさ、女一人もいないってありえないって。秋山さんにチラッと聞いてみたんだけど、プライバシーには干渉しない主義だって言われて。んで、アスカにも聞いたんだけど、知らないわよ、あんなオヤジのことなんか、だと」
うーん、と良太は心の中で唸る。
秋山もアスカも工藤と良太のことに関して口を閉ざしてくれているらしいが、ばれるのも時間の問題という気がする。
それでも、自分からこうだ、なんて言えるものでもないし、第一、どういう関係だ、とは未だに良太は自問自答している。
ま、なるようになるさ。
黒川真帆のことはやっぱり気にならないではないのだが。
「それよか、仕事!」
良太は自分に叱咤するように言った。
「お前にかかってるんだからさ、今度のドラマ。頼むよ、ほんとに」
「ああ、相手、山本ゆきえだっけ?」
「そ。羨ましい限りだよ。山本ゆきえと共演できるってだけでも」
今人気絶頂の若手女優だ。
ストレートの黒髪がきれいなアジアンビューティといったところだ。
コミカルな役から、マジメな役までしっかりこなす実力派女優でもある。
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