「ラッキーは仔犬の時から車慣れてるけど、違う車だとちょっと慣れさせないとダメかも」
各停が来て、力と佑人は電車に乗ってからも、犬の話に夢中になっている。
「しっかし、変われば変わるっつうか」
甲本が坂本にこそっと呟いた。
「ああ?」
「あの、俺様な力が、釣った女にエサはやらねー、あの力が、かいがいしく佑人っちに取り分けてやったりとか世話やいてる図なんざ、天変地異かって」
「ああ、今さら」
坂本はそんなことかとばかり、そっけない返事を返す。
「しかも、佑人はぽやっとしてるっつうか、どうもありゃ、佑人が苦手なものと食えそうなものを皿に交換してるんだぞ? あの、力が」
「だから、今さらだろーが」
内田たちとやりとりしながらしっかり佑人や力を見ていたらしい甲本に、観察眼だけは鋭いやつだと坂本は心の内で思う。
「内田とかもいたのによ、周りをはばからねー力と佑人のあのラブっぷり!」
「眼中にねーんだよ」
「誰も気がつかねーのかよ」
「俺に突っかかられても。まさかの力だからな」
「うう、やっぱ佑人恐るべし」
甲本は唸るように言い、向かいのドアの傍に立つ力と佑人をちらりと見やる。
「なあ、あれか、女なんかより佑人の方がなんぼもイイってか?」
耳元で囁いた甲本の台詞に、坂本もニヤっと笑う。
「ま、そうなんじゃね? チクショ」
「何のチクショだよ?」
「うっせー」
電車は久我山に着いたが、佑人は降りない。
「ふーん、佑人、これから力の部屋に行くわけ」
「だから、うっせーんだよ、甲本」
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