いつかそんな夜が明けても8

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 車を駐車場に入れると、エントランスでコンシェルジュに軽く挨拶した良太が先に立ってエレベーターを待った。
「いいぞ、お前はもう帰っても」
「んなこと言って、もしまた襲われたらどうすんだよ!」
「ここは大丈夫だ。セキュリティは万全だ」
 工藤はそういうが、良太は部屋まで行って、各部屋を確認して歩き、心配そうに工藤を見上げた。
「俺、今夜ついてようか?」
「ガキじゃあるまいし」
「そういう問題じゃないだろ?! もし、また何かあったら……」
 即座に言い捨てた工藤に、良太は食い下がる。
 コートをソファに放り、工藤はその横に腰を下ろした。
 さすがに、いささか疲れたようだ。
 苦手なパーティ会場で、よりによって最も嫌いな人間と顔を合わせ、さらにはこの怪我だ。
 今日は厄日どころじゃないな。
 マスコミにかぎつけられるのを恐れて、加賀のところに行ったのはいいが、あのやろう、余計なことを、とまた工藤は眉間の皺を増やす。
「これ以上あってたまるか! いいから、お前はさっさと帰って明日の仕事の心配でもしてろ。くだらんことを考え始めるとお前はすぐそれで飽和状態だ」
「どこがくだらんことだよ?! 警察にも行かないってんだろ? どうせ」
 良太は声を上げて言い返した。
「わかってたら、静かにしてろ」
「あんた、襲われたんだぞ?! さっきの医者だって、またかみたいなこと言ってたじゃないかよ!」
「昔のことなんざとやかく言っても始まらん」
「昔のことじゃないだろ! さっきの、あんた心当たりがあるのかよ? 組とかって……」
 良太としてもこのままでは引き下がれない。
「心当たりなんかわんさかある。お前だって身をもって体験したのを忘れたわけじゃあるまい?」
「だけど、あの医者が言ってたじゃないか!」
 組、などという言葉に良太が過剰に反応しているのがわかっているので、工藤はなるべくそっちの関係から注意をそらしたいのだが、加賀の不用意な言葉のお陰でそう簡単にいきそうにない。
 クソ、あのヤブ医者め!
「医者が何を知るものか。勝手な憶測を立てただけだ。とにかく、お前がここにいたって、どうにもならん」
「わかったよ! どうせ、俺なんか何の役にもたちゃしないさ!」
 良太はどうしても口を割ろうとしない工藤を睨みつけながら、玄関に向かう。
「明日のスケジュール、チャラにしとくから! どうしてものやつは俺が行く」
「午前中だけでいい。午後からは俺が行く」
「何言ってんだよ、そんな怪我してるのに! とにかくダメだ! 絶対、明日だけでも動くなよっ!」
 捨て台詞のように言うと、良太は不承不承という顔で部屋を出た。
 それでもまだ納得いかない。
 千雪のこともよく知っているらしいあの加賀という医者、胡散臭そうなやつだが、工藤もそれなりに信頼しているからわざわざ押しかけていったに違いない。
 千雪に聞いてみようか?
 いや、千雪にしても良太に軽々しく話してくれるとは思えない。
 どうやら軽々しい話題ではなさそうだ。
 組関係で工藤が襲われて怪我をしたことがあったとは、大概見当がつく。
 いろんな思考が良太の頭をめぐり、ぐるぐるになっている。
 エレベーターで駐車場に降りた良太は、ふう、と息をひとつつくと、一応周りを確かめ、停めてある車の中も覗き込んでからジャガーに乗り込んだ。
 と、良太の携帯が鳴った。
「今どこだ?」
 工藤だった。
「駐車場だよ、会社の」
「気をつけろ。セキュリティが万全とはいえ、さっきの男が潜んでいる可能性がないともいえない」
「ちゃんと確かめた。みろよ、あんただって、危ないかもしれないと思ってるじゃないか!」
「考えごとでもしながら、ほいほい歩くやつだからお前は危ないと言ってるんだ」
「あんたこそ気をつけろよ! バカやろっ!」
 良太は電話を切る。
「ちっきしょお、てんで俺のことなんか信用してないんだ! だから何にも話してくれないんだ! わかってら、工藤のアホバカヤロお!」
 ハンドルを切りながら、良太は思い切りわめく。
 喚きついでに零れ落ちた涙を、乱暴に手で拭う。
「どうせ俺なんか、逆に足手まといか、怪我でもして迷惑かけるだけだと思ってやがるんだ」
 以前、工藤をかばったはいいが、代わりに刺されて多大な迷惑をかけた覚えがある良太は、そうならない保障がないと思われても仕方がないというのが悔しい。
 降り止まない雨が、夜の道をいっそう暗くする。
 鈍い外灯の光がまたぼやけそうになって、良太は慌てて目をこすった。

 


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