子供の頃から踊りが好きで、高校時代には既に日本舞踊の名取になっていたはずだ。
「えらい変わりようは、千雪くんの方やないの。作家さんになったかと思たら、名探偵、と思たら、何やとても同一人物とは思われへん人相風体が噂になって、しかもこないだ、変な事件あったやろ? この界隈でも一時期大騒ぎやってんよ。ニュースでもまるでその変な名探偵が犯人やいわんばっかやし、あのアホアナ! 大体、何なん? あれは!」
菊子に問い詰められて、千雪は苦笑いしか出てこない。
「いや、アホなんは警察や。まあ、ええやん、犯人捕まったみたいやし」
「やから、何なん? あのヘンテコな人相!」
艶然とした芸妓姿で菊子が詰め寄ってきて、千雪は思わず後ずさる。
「ああ、あれはやな、ほんまは金田一耕輔目指したんやけどな、さすがにハカマやと歩きにくいし」
「ふーん、江美ちゃん、結婚式の前日、会いに行ったやろ? その時、見て吹き出してしもたて言うとったけど」
「ああ、ハハ……江美ちゃん、元気? 今はもう沢口屋の若おかみやもんな」
すると菊子は千雪にきつい視線を向ける。
「千雪くんのアホ!」
「へ………」
「やから、何で江美ちゃん、帰すんや! 結婚式の前日やで?! そしたら花嫁さらって逃げるんが相場いうもんや!」
千雪はうっと言葉に詰まる。
「……相場? なんか?」
「そうや!『卒業』て、うちのお母ちゃん昔から好きで、イヤって程見せられてん。もうこれしかない、て、江美ちゃんのお尻叩いて、東京に送り出したのに、一人で戻ってくるんやもん」
そういえば、江美子が帰った後、京助も似たようなことを言っていた。
「新幹線のホームで帰り際に手紙渡されて、結婚のことわかったんはそれ読んでからやし。そうかて、江美ちゃん、幸せなんやろ?」
ふと菊子の言葉に、千雪は何となく不穏なものを感じた。
