アナウンスが銀座を告げると、千雪は辛うじて地下鉄を降り、階段を上がって四丁目交差点に立っていた。
どこに行くともなく人の群れに紛れて向かいへと横断歩道を渡る。
あれ、俺、何でここにおるんや?
心の中で自問してから通りに目をやった時、ギャラリーらしき看板があった。
あ、せや、ギャラリーでも覗いてみよ思うとったんや。
自分の行動を確認しないと、ずっと何かふわついたような感じがあって、時折ぼんやりしてしまう。
さほど広くないギャラリーは静かだった。
二人ほど人が入っていた。
作品は十号くらいまでの小品が主で、キャンバスから油絵の具の臭いがする。
奥に立っているセーターにジーンズの若い学生が作者のようだ。
南欧あたりだろうか、明るい画面に海と建物が輝いている。
今時の学生にしては奇をてらったようなところもなく、かといって古風な写実でもない独特のマチエールが語り掛けてくる。
空の深い青が引き込まれそうだ。
その青に見入っていた千雪は、ふと眼がしらの奥が熱くなってくるのを覚えた。
かなり情緒不安定らしい。
と、ポケットの携帯が鳴った。
千雪はギャラリーを出て携帯に出た。
「ああ、今、平気や」
珍しく研二からだった。
さっき研二を選ぶのかと京助に聞かれて思わず肯定してしまった千雪だが、そんな思いが研二に通じたかのようなタイミングに、千雪は少し動揺した。
真由子は帰ったらしいとは聞いたものの、わざわざ子供を連れて研二のところへやってきたのは、元のさやに戻る以外ないだろうと思う。
研二もきっとそれを望んでいるに違いないのだ。
今さら千雪が出る幕があるとは思えない。
「昨日は飲み行こ言うとったのに、ドタキャンしてしもて悪かった」
研二はすまなそうな声で言った。
「ええよ、三田村と飲み行ったし」
「今夜は、時間取れへん? 昨日のやり直し」
「時間ならいくらでもあるし。三田村も来るて?」
「いや、今夜は仕事で抜けられんらしい。外やと寛げんし、うちで鍋とかどや?」
「ええやん。寒い時はやっぱ鍋がええな」
千雪が銀座にいるというと、研二は早めに上がるからそのギャラリーで待っているように言って携帯を切った。
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