広瀬良太がニューヨークに来て一週間が経った。
一緒に渡米した後輩社員である森村繁久は、生まれ故郷に戻れたからか、ニューヨークの街で生き生きしている。
綾小路京助に借りたアパートはめちゃくちゃ広くて、大きなリビングの他にバスルームのついた部屋がいくつもあった。
そのうちの二つを良太と森村で使うことにしたが、それぞれクイーンサイズのベッド、デスク、チェスト、ソファとウォークインクローゼットがついている。
「俺、この部屋だけで十分暮らせるぞ」
ベッドに乗っかった良太は呟いた。
朝晩は結構気温が低く、上着を着ないと肌寒いくらいだが、日中は過ごしやすい暖かな春の空だ。
ニューヨークに着いた翌日の夜は、一足先にニューヨークにやってきていたデザイナーの佐々木周平やアシスタントの池山直子と食事をすることになり、良太と森村は彼らのオフィスや住まいのあるS&Wビルの最上階に招待された。
S&Wコーポレーションは、関西タイガースから今期MLBボストンレッドイーグルスに移籍し、活躍している沢村智弘と弁護士のトニー・ウイルソンが数年前から共同経営している企業で、ビルは会社所有、ウイルソン弁護士事務所の他にジムといくつかのコンサルタント事務所が入り、この春から五階には佐々木がオフィスを構えている。
良太と森村がまだ機内にいるうちに直子から食事の誘いのラインが入ったのだが、有名レストランのシェフが出張してディナーを提供したのち、ウイルソンがワインをふるまってくれた。
食事の前に、ウイルソンからジムを経営しているウイルソンのパートナー、マイケル・リードを紹介された。
「智弘とは子供の頃からの付き合いだってね」
「ああ、腐れ縁のようなもので」
ウイルソンに聞かれて、リトルリーグでいつも対戦していたライバルだったと良太は話した。
中国人の母とドイツ系アメリカ人の父を持つウイルソンは黒髪のスレンダーで知的なハンサムガイだが、元アメフトの選手だというリードは二メートル近い身長でがっしりした大きな男で、アフリカ系アメリカ人とフランス人のハーフだと言うが、あたりが優しい感じだ。
特訓の成果か直子は懸命に二人に質問を投げかけるし、ウイルソンとリードはてっきり直子がティーンエージャーだと思っていたと驚かれた。
その前に良太も森村も年齢よりずっと若く見えると妙に感心されたが、佐々木に対しては、二人とも美しいを連発していた。
翌日は森村が自分のテリトリーにある高校や大学、図書館に良太を案内し、それに子供の頃から可愛がってくれたという店の主人ケインズにも紹介してくれた。
コーヒーから日用品などなど取り揃えた店内にはいろいろと面白いものがあった。
口ひげを蓄えたケインズは陽気なアメリカ人そのもので、またいつでも来い、と二人を歓迎した。
近くにある博物館に近代美術館、メトロポリタン美術館、その他、様々な歴史的な建造物など、とても数日では回れないだろう。
ただ、森村が車で通り抜けたリバーサイドドライブの公園やハドソン川から見える景色などは、良太はとても気にいって、ここ数日で何度か訪れている。
翌週からは研修が始まり、初日から九時から五時までみっちり講義やディスカッションで良太は帰るとへとへとになった。
食事は迎えに来てくれた森村が作ってくれたし、今夜はゆっくり眠りたいと思った矢先、携帯が鳴った。
「え、平野さんが事故? それで容態は?」
小林千雪原作の検事六条渉と老弁護士シリーズのコラボとなる映画『はげしかれとは』のロケが既に始まろうとしているが、脇を固めていた俳優平野隆之が事故に遭ったと、平野のマネージャーから連絡が入ったのだ。
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