空はやっぱ青い61

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 三十メートルほど先にバンが停まっているのを確認すると、ニックはゆっくりと近づいていった。
 万が一の時のために、銃も腰に忍ばせている。
 古びた建物のドアを開け、バンの後部座席から良太を二人がかりで降ろすのが見えた。
 良太はぐったりしているらしく、男らに逆らうようすもない。
 時刻は七時半を過ぎ、日も暮れかかろうとしていた。
「とっとと運び込め」
 大柄な男の声がした。
 良太と共に三人の男がドアの向こうに消えると、ニックは足音を抑えつつ建物へと近づいた。
 突然、冷たい水を頭から引っ掛けられた良太は「うわっ」と声を上げた。
 目を開けたつもりだが、頭がくらくらして周りがぼやけている。
「お前、俺らの話、聞いてたな」
 良太の頭を掴んで凄むのは、ボブとテッドのうち、大柄な方の男だ。
 ああ、やっぱり、ジミーがトイレに迎えに来た時、気づかれたのか。
 頭の中で良太はそんなことを考えていた。
 椅子に座らせられて、後ろ手に縛られている。
「何を聞いた? 誰かにしゃべったか?」
「……しゃべったって言ったら、またその誰かを捕まえにいくのか?」
 こいつ、メチャお間抜けじゃないのか?
 良太がそういうと、男は良太の頬を平手打ちした。
 良太の身体は椅子と一緒に倒れ込んだ。
「るせえ!」
「おい、ボブ! よせよ! 死んじまうぞ!」
 ひょろっとした方の男が喚くと、良太を椅子ごと起こした。
 ああ、図体のでかい方がボブか。
 口の中が切れたらしい。
 殴られた頬が痛むものの、ぼんやりと良太は男を見た。
「フン、どうせ、生かしちゃおけねえんだ。おい、フランク、あそこのドラム缶、持ってこい!」
「ボブ! 何するつもりだ?!」
「るせんだよ! てめーがあんなとこで、余計なことくっちゃべるからじゃねえか!」
 そこへフランクと呼ばれた男が、空のドラム缶を転がしながらやってきた。
「いつ金を受け取るんだ!?」
 フランクがイラつきながら聞いた。
「今夜、連絡が入る手はずだ」
「ほんとに、レイチェルのやつ、金をよこすんだろうな?!」
 フランクの言葉に、良太ははっとする。
 やっぱりレイチェルが、こいつらと共謀して?
「おい! 余計な口を噤め!」
 ボブがフランクを怒鳴りつけた。
「どうせそいつ、始末するんだろ。だったらとっととやっちまおうぜ」
 フランクは言い放った。
 え……俺、こんなとこで、くたばるわけ?
 冗談じゃないぞ!
 ようやく良太は危機を感じた。
 どうやら三人のうちで一番残忍なのはフランクらしい。
 褐色の肌のラテン系で、ぎらついた目で良太を見ながらナイフを取り出した。
「ちょ、やめろ!」
 良太は思い切り日本語で叫んだ。
 その時だ、サイレンの音が聞こえてきたと思うや、数台のパトカーが走り込んできた。
「NYPD!」
 口々に宣言しながら、ずらりと銃を構えた警察官たちが三人を取り囲む。
 三人は逃げるに逃げられず、フランクは咄嗟に良太の首にナイフを突きつけた。
「近づいたらこいつを殺すぞ!」
 精一杯に声を張り上げたフランクに、じわりと一歩踏み出したのはオースティン警部だった。
「その途端にお前は撃たれて終わりだよ」
 怜悧な言葉でオースティン警部はフランクを睨みつけた。
 しばし睨み合いが続いたが、迫力負けしたのはフランクだった。
 そのようすをサイレンの音とともに建物の裏に回り込んだニックと既にここに辿り着いていたジェスは息を飲んで見つめていた。
「良太、大丈夫そうだな」
 ジェスが言った。
「ああ」
 警察に根掘り葉掘り聞かれることがわかっていたので、ここで自分たちが出て行くわけにはいかなかった。
 二人は良太の無事を確かめると、そのまま裏からこそっと姿を消した。

 


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